第38話 魔力操作
「あー……。俺のスキルの1つに《魔力操作》っていうスキルがあってな。使い道に気づいたのはつい最近で、まだまだ練度が甘かったんだよ。ほら、初めて鬼の巨人の足斬ったときに、何か溜めてから斬っただろ」
:あーあれな
:そんな軽く斬れるものとは思わんかったから驚いた
:あれがそのスキルのおかげ?
:なんか名前で想像はつくな。
「普段の俺の剣と俺自身の能力だと、鬼の巨人の体表とかまったく斬れないんよ。何十回も同じところに攻撃を集中してやっと斬れる、みたいなそんな感じ。そこで、《魔力操作》スキルを使って自分の体内にある魔力を剣に集中させる。そしたら、今まで斬れなかったものがすっぱり斬れるようになる」
実際第13層を初めて攻略したときは、本当に何十分何時間かけて敵を削っていく地道な作業でしか攻略することが出来なかった。
だが魔力操作の可能性に気づいた今ならば、そこまで手こずることもなく簡単に倒せる。
「魔力操作っていうスキルは名前の通り、自分の体内の魔力を操作できるスキルな。そんでそれを剣とか自分の体に集めて、身体能力を上げたり斬れ味を上げたりするのが主な能力。多分」
まあ俺もまだこのスキルの使い道に関しては全くの開拓不足なため確かなことは言えないのだが。
少なくともそういったことは出来る、というのが教えることが出来る。
:あーなるほど、それで本来なら斬れないものを斬ってたのか
:それが暴走とどう関係が?
:まさか魔力の使いすぎでパーサーカー化した、ってこと!?
:でも昨日使いこなせるようになった、って言ってたしな
「どうも配信で初めて第15層で戦闘したときに、そのスキルが大分成長したというか馴染んだみたいでな。今まではそれこそ、初めて巨人の足切った時みたいに時間かけて集中しないとチャージ出来ない必殺技みたいなものだったんだけど、動きながらでももっと滑らかに出来るようになった。必殺技から一般技になった感じ。で、それがわかったらすぐ試したくなったから第15層に突っ込んで、もっと使いこなせるようにと思って全力で戦ってたらいつの間にか時間が経ってた、というオチだね、うん」
:そんな暴走するほどのことか?
:嬉しいのはわかるけど、暴走まで行く?
:他になんか理由があるんじゃいの?
:新しいスキル使えたーて子供かて
「いやあ、真面目に俺強くなりたいと思ってるから、思わぬ成長があって普通に嬉しかったんだよな。それでハイになっちゃった感じ」
俺も今考えると暴走するほどのことではないよな、と思うのだが、同時に価値を見出しつつも、どう成長させれば良いのかが理解出来ていなかった魔力操作の成長だ。
嬉しくなってテンションが上がってしまうのも仕方のないことだと言って良いだろう。
実際、《魔力操作》という名前から想像出来る性能については考えていたし、それを使いこなすための鍛錬も自分なりにやってみた。
《魔力操作》スキル習得以降感じ取れるようになった体内の魔力の流れを、瞑想しながら動かそうとイメージしてみたり、あるいは平常時なら体から少しずつ垂れ流しになっている魔力をとどめて体に纏わせようとしてみたり。
しかし、そんな訓練ではなかなか成果が上がっていなかったのだ。
そのためにスケルトン相手では生身で大軍に挑む羽目になっていたりもした。
実際魔力操作さえ出来れば身体能力でスケルトンに負けることもなく、もっとちゃんと戦えたはずだ。
そう思いつつ、朝晩と10分ずつぐらいだが瞑想しながら魔力操作の鍛錬をしていた。
それがいきなりの大成長である。
多分グラフにしたら直角ぐらいに角度が変わっていると思う
それぐらいに、いきなり俺の魔力操作の精度というのは上がったのだ。
結局こればかりは、鍛錬よりも実戦の方が遥かに良かったらしい
「ということで予定変更。明日の夜に地上に帰還する予定だけど、今日明日は魔力操作の練習に集中することにします」
:いまいち凄さがわかってない
:まあヌルがやりたいことで良いけど。元からそれ見たくて見てるんだし
:結局どれぐらい凄いのか例えてくれ
:見てて違いがあんまりわからないから実感わかんなあ
「このスキルの凄さで言うなら、今中層をソロで探索してる人が、深層を探索できるぐらいのスペックを獲得できる、って感じかな。もちろん《魔力操作》スキルの練度次第だけど」
実際多分今の俺も、先日はスケルトンにズタボロにされたが魔力操作を十分に使えれば500体の群れぐらいなら余裕で討伐できる自身がある。
魔力操作で肉体を強化することが出来れば、スケルトンに押し合いで負けることも無いし、以前までより更に早く動くことが出来るようになる。
もしかしたら、スケルトンの持ってる剣ごと叩き切る、なんてことも出来るかもしれない。
:それは盛り過ぎでは?
:そんなチートスキル持ってたんかい
:天は二物と狂気を与え過ぎでは?
「いや、このスキルについては後天性、ていうか前いった深層の最後のボスとの戦闘中に覚醒したスキル。そんで多分、これ使いこなせってことじゃないかと思ってる。
:またチュートリアル的な理屈で?
:必須技能ってこと?
:じゃあ誰でも可能性はあるんか
「実際おかしいとは思ってたんよ。明らかにここより下のモンスター達硬すぎるから。何十回と同じ場所斬ってようやく傷1つとかいうレベルだったからな。多分魔力操作による強化を使う前提の難易度になってるんじゃないかな、っていう」
割と本気でそう思う。
じゃないと流石に巨人とか第15層のモンスターどもの体が硬すぎる。
全くもって手持ちの剣で斬れないというのは、いくら階層があいているとはいえ隔絶し過ぎだろう。
:まあ、聞く限りでは7層から13層とかで敵が進化し過ぎな感じはするな
:レベル不足、とかじゃなくて?
:ヌル普段分身だからレベルあまり上がってないとかないの?
:なんかチュートリアルといい大分ダンジョンが人間にとって都合が良い存在に思えてくるな
「少なくとも巨人相手でレベル不足は無いと思う。動きの速度ではついていけてるし、普通に攻撃力だけが不足してた。スケルトン相手も、レベルがあればもっと簡単に仕留めれるけど、それと同じことが魔力操作が出来れば出来るんだよな」
うん、やはり考えれば考えるほどに、魔力操作という技術が必須のものだとダンジョンの様子が示しているような気がしてきた。
少なくとも第9層まではそんなことはなく普通の剣でも攻撃が通じていたので、もしかすると深淵は10階層ごとにコンセプトがあるのかもしれない。
第10層までは深淵という場所に慣れることがコンセプトで、第12層からは魔力操作という技術を使うように学ばせるのがコンセプト。
ダンジョンという存在には何者かの意思が介在している、というと陰謀論的な内容に思えるかもしれないが、しかし実際にチュートリアルなんていう発言もあるわけだし、あながち間違っていないような気もする。
「まあそういうわけで、残りの2日はまた第13層と15層に行って、レベリングしながら魔力操作の練習しようと思う。ので、そういうことでよろしく」
:はーい
:ちなみに第12、14、16層にいかないのはなんで?
:どうせなら他の階層も見てみたいんだけどなあ
:どうせならまだ配信してない階層にいかない?
確かにそれは視聴者からすれば気になるだろう。
俺はここ数日第9層、第13層、第15層の3つの層しか使っていない。
残りのは何故使わないのか、気になるのは当然だ。
「まず第12層は、街の遺跡みたいな場所で多数のゾンビと戦う場所だけど、ゾンビが対して強くないのと、レベル的にも戦闘技術的にも美味しくないから無し」
あの階層は、本当に大したことがない。
確かにゾンビの数は多いが屋根や遺跡の上に登ればいくらでも翻弄することが出来る。
その上1体1体も全く強くなく、経験値的にも美味しくない。
だから俺はもう基本的に立ち入らないようにしている。
後1つ言うなら配信的に厳しいと思う。
「で、第14層と第16層は、俺にとっても相当命がけになるぐらいに危険だからレベリングじゃいかない。レベリングは生身でやるから、事故りそうな場所は極力避ける」
:せめて層の詳細だけでも
:どんな層か教えて欲しい
:下に行けば行くほどってわけじゃないんだな
:そんな危険な層を踏破したのか。
概要ぐらいは触れておいても良いだろう。
特にこれから挑む探索者の人達にとっては命に関わってくるわけだし。
「第14層は森になってる。でその中に植物系のモンスターが山程潜んでる。だから敵の数が多いのと不意打ちが結構多くて普通に危険。第16層は岩山の中に出来た蟻の巣になってて、馬鹿だろって言いたくなるぐらいの数の蟻の群れがいる。しかも1体1体が他のモンスターと同じで巨大な上にめっちゃ硬い。だからレベリングをする場合については、このどっちも危なすぎるから選ばないようにしてる」
:蟻の群れとか想像しただけで無理
:森の中に植物系モンスターってめっちゃ面倒じゃね?
:どうやってそれ越したの?
:取り敢えず巨人の巣と大樹林が比較的に安全なのはわかった。
:大樹林のあの連戦に次ぐ連戦でも遠慮してたんだなって。
「じゃ、そういうわけで巨人の巣、行ってみるぞ」
まずは圧倒的に高い防御力を誇っていて俺の剣がほとんど通らなかった巨人から、魔力操作を試して戦ってみることにしよう。
:わーい
:無双出来たりするんかね
:わからん
:まあスケルトンのところよりは浅い場所だしね




