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【書籍化】顔だけ聖女なのに、死に戻ったら冷酷だった公爵様の本音が甘すぎます!  作者: 一分咲
二章

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スレヴィの誕生日パーティー②

 程なくして、大広間でパーティーが始まった。


 たくさんの光と音に彩られた煌びやかな会場。そこへ、大勢の招待客が詰めかけていた。


 さすがフリード国、客のほとんどが何らかの動物のしっぽや耳を覗かせた獣人たちである。初めての光景に、いつものエステルだったら胸を弾ませていたかも知れない。


 けれど、主役として挨拶したスレヴィに、皆から誕生日を祝う笑顔は向けられてはいなかった。どちらかというと、スレヴィからは目を逸らし、できるだけ話しかけられないようにしている空気を感じる。


「スレヴィの誕生日パーティなのに……」


 こんな空気なのは、スレヴィが『嫌われ者の第五王子』だからなのだろう。自分にも似たような経験があるエステルは思わず絶句したが、本人は全く気にしていない様子だ。


「うわぁ、ビュッフェ台にたくさんの種類のグラニテがある! ……って、今日は会場で出された食べ物に手をつけちゃいけないんだっけ」


 スレヴィがブンブンと振りかけた尻尾が一瞬で床についた。本当にかわいそうだが、今日ばかりは許可してあげるわけにはいかなかった。


「また今度食べましょうね」

「うん……エステルが作ったミルク氷のかき氷のまた食べたいな」

「今度作るね」

「わーい」


(こんな空気の中でも無邪気に振る舞えるスレヴィのメンタルが強すぎるわ……)


 心の中で称賛を送るエステルだったが、ルシアンも同じ気持ちのようだ。状況を気にしないでマイペースに振る舞うスレヴィを、呆れたように見ている。


「お前は……本当に犬みたいだよな、ため息が出る」

「ルシアン殿下、迷惑をかけてごめんなさい」


「それはいい。今日一日お前を守り切れば、円満にエステルのカフェから子狼が消えて、俺のモヤモヤも消えるんだ。これ以上のことはない。安心して守られろ。そして死ぬな」

「もやもや……?」


 エステルはルシアンの本音に突っ込むのはやめたのだが、きょとんとしたスレヴィはしっかり拾っている。やめてほしい。


 とはいえ、右手はルシアンの腕を掴み、左手はリーナにしっかりと掴まれているスレヴィは、まるでひとりでは歩けない、ぷるぷると震える子犬のようだった。どこからどう見てもかわいい。


(彼を邪険に扱えるフリード国の人たちはどうかしているのではないかしら。そして、こんな空気に動じないスレヴィって意外と大物なのでは)


 そう思ったところで、ルシアンはエステルとクロードから離れていく。ここからは別行動するつもりのようだ。


「クロード、エステルを頼む」

「了解にゃ」


 クロードが応じると、リーナは一歩進む。


「いきましょう、ルシアン殿下、スレヴィ」

「ああ」


 ルシアンがここから別行動するのは、できる限りエステルから危険を遠ざけるためにも思えた。


(それでなくても、かしこまったパーティーってご挨拶とかいろいろ大変だものね)


 正しい振る舞いを知っていながら、スレヴィの護衛ができて、それでいて常にそばにいても不自然ではない存在。ルシアンがいるだけで、リーナはかなり安心しているように思える。ただ、ごちゃっとしていて見た目としては美しくない。


「あいつら、おもしれーな。離れた場所から見ると、聖女リーナをルシアンとスレヴィが取り合ってるように見えるぞ」

「……それは……」


 クロードの言葉に、エステルの表情は曇る。


(ルシアン様の気持ちにお変わりはないし、リーナ様も全くそんなつもりではないのだけれど……少しだけモヤモヤするような)


 今ならさっきルシアンが言っていた『俺のモヤモヤも消える』の意味がわかる気がする。しかし、この状況を招いたのはエステル自身なのだ。ただ反省するしかなかった。


(オリオール王国に戻ったら、ルシアン様にきちんとお話ししなきゃ。ルシアン様は私のことを最優先で考えてくださっているのに、私はその気持ちに答えていなかった。優しさに甘えて好きなことをしているんだもの。――ルシアン様は私の婚約者なのに、なんてそんなことを思う資格はないわ)


 フリード国への滞在で、エステルは結婚はいつでもいいと言ってくれているルシアンの愛の深さを知った気がしていた。


(この旅が終わったら、結婚について話を進めたいとルシアン様にお話ししよう)


 そこで変化は起きた。訝しげなクロードの声が頭上から降ってくる。


「――あれ、闇聖女、見ろ」

「?」


 顔を上げると、不自然なひとかたまりになって移動する三人に一人のウェイターが近づくのが見えた。そして、飲み物が入ったグラスをスレヴィに渡した。リーナも過去で経験したことなのか、顔を強張らせてスレヴィの腕をがっしり掴んでいる。


(……つまり、あれは毒入りなのでは……!)


 緊張が走ったものの、打ち合わせ通り、スレヴィはグラスに口をつけない。それをリーナが奪うようにして受け取り、匂いを嗅ぎ、顔を顰めた。


 見ていたルシアンがそのウェイターに何か頼み事をするように耳打ちすると、ウェイターは軽く頷いて裏へと戻って行く。心なしか、足取りがふらついているような気がする。


 じっと見ていたクロードがふぅんと鼻を鳴らす。


「一人目、捕まえたみたいだな」

「?」

「見えなかったか。ウェイターの足元に黒いもやがかかってた。一時的に相手の意思を奪う、ルシアンの闇魔法だ」

「……えっ?」


「裏で待っている聖女リーナの配下の人間に引き渡すんだろうな。これで、残るは四人。さっさと捕まえて本題の大元にいる人間を捕まえるところに行きたいよにゃ」

「…………えっ? 今ので、もう一人目が捕まったの?」

「そうだにゃ。順調、順調!」


 一度目の人生のスレヴィが死んだ場面をあっさり回避できたことに驚いてしまう。


(こんなに簡単でいいの……? ううん、本当にルシアン様に頼り甲斐があって、リーナ様の読みが当たっていただけかもしれないけど、それにしても……!)


 出来過ぎではないだろうか。


 そんなことを考えながら、あまり目立たないように気をつけつつ過ごす。


 とはいえ、『伝説の聖女様』によく似た顔をしているというエステルは、どうしても注目を集めてしまう。定期的に誰かに話しかけられては、愛想笑いでやり過ごすという流れをひたすら繰り返すことになってしまった。


(伝説の聖女様は想像以上に慕われているのね。これで、少しでも光属性魔法が使えるなんてわかったら大変なことになりそうだわ。フリード国で嫌われている光属性魔法を、崇拝されている聖女様によく似た顔の人間が使うんだもの。私が狙われるぐらいならまだしも、この国の価値観が変わって政情不安になる可能性があるのでは)


 ルシアンがスレヴィを引き取ってもいいと言ったのも、フリード国が安定した国だからだ。何度も死に戻っているリーナも、スレヴィが殺されることこそ危惧すれ、他のことは何も気にしていなかった。


(いくらスレヴィが助かっても、この国にトラブルを持ち込んではいけないもの)


 細心の注意を払いながら、できる限り目立たないようにして過ごし、どれぐらい時間が経ったのだろうか。ふと、エステルの前に一人の背の高い女性が立ちはだかった。


「こんばんは。あら、噂通りだわ。本当に伝説の聖女様そっくりのお顔をしているのね」


(……この方は……?)


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