国外追放された王子様
「第五……王子?」
誰のことだ、と視線をスレヴィに移すと、彼は目をぱちぱち瞬いて三角の耳をぴんと立てている。あきらかに緊張している様子に、エステルは察した。
「待ってください……このかわいいスレヴィは王子様なの? そんなこと一言も言っていないけれど?」
「会ったことはないが、フリード国の王族にスレヴィという名の狼獣人がいたと記憶している。年齢は十三歳。噂では、その者は光属性の魔力を持っていると。彼と一致する」
「スレヴィ、ルシアン様がおっしゃることは本当なの?」
エステルの問いに、スレヴィは観念したようだった。
「……はい。勝手に入国してごめんなさい。でも、追放されてオリオール王国の国境手前まで送り届けられてしまった結果、入国するしかなくて」
シュンとしているスレヴィに、ルシアンが第二王子らしい声色で告げる。
「複雑な事情があるのはわかった以上、手放しで入国を許すわけにはいかない。だが、王位継承権のゴタゴタに巻き込まれたとかそういう国家間の摩擦を招きそうな問題を抱えているわけではないのなら、我が国で保護することは可能だ。もちろん、正式な手続きを得たうえでだが」
「本当ですか。僕はこの国にいていいんですか……!」
さっきまでかわいそうなほどに凹んでいたスレヴィは、目を輝かせている。それを見ると、エステルも何かしてあげたい気持ちになった。
(スレヴィがオリオール王国で暮らすための手続きはルシアン様がやってくださるとして、私にも何かできることはないかしら。……そうだわ!)
良い案を思いついて、エステルはスレヴィの手を取る。
「スレヴィはこのカフェで私が引き取るわ。二階には一部屋しかないけれど、十分な広さはあるし、不自由はしないと思う。ね、行く先がないのなら一緒に暮らさない?」
「本当ですか! エステルさん、ありがとうございます……!」
尻尾をぶんぶん振りながら目を輝かせているスレヴィがとんでもなくかわいすぎる。アイヴィーという義妹には裏切られてしまったが、弟のようにかわいいスレヴィなら上手くやっていける気がする。
そんなことを考えていると、ルシアンの思いっきり困惑する声が聞こえた。
「ちょっと待ってくれ、一緒に暮らすのか?」
「はい! 確かに、婚約者がいる未婚女性が殿方を自宅に招き入れることはあってはならないことですが、スレヴィはまだ子どもです。世間体的には問題ないかと」
「……っ」
戸惑っているルシアンが何か言おうとしたように見えたところで、カフェの扉に取り付けられた鐘がカランカランと鳴り、数人の常連客が入ってきた。
「こんにちは。今日のケーキは何かな」
「この前のアイスミルクティー、お肌やツヤツヤになったからまたお願いしたいんだけど」
午後のお茶の時間、これからカフェは混雑する時間帯になる。慌ててエステルは接客モードに切り替えた。
「本日のケーキはマンゴーのレアチーズケーキと桃とマスカットのタルトです。もちろんアイスミルクティーもセットにできますよ」
「どうしようかなぁ」
「マンゴーのレアチーズケーキ、おいしそう」
常連客は増え、店内はどんどん賑やかになっていく。それを見ていたルシアンが、「スレヴィを二階の居住スペースに連れていく」と身振り手振りで教えてくれる。
(ありがとうございます、ルシアン様)
エステルは心の底から感謝をして、カフェの営業に専念することにする。
「……エステルにかわいがってもらえるのか。俺も耳としっぽがほしいな……」
遠くから聞こえたルシアンのだだ漏れた本音は、聞こえなかったことにしておいた。
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