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第5章ー26

 9月3日夕刻のベルギー解放軍総司令部からの攻勢中止命令は様々な波紋を広げた。

 ベルギー軍以外の英仏米日軍は、ベルギー解放軍総司令部からの攻勢中止命令を素直に受け入れたが、ベルギー軍は納得しなかった。


「何故です。わずか半日の攻勢参加では納得できません」

「我々はまだまだ戦えます。どうか、せめて後1日の攻勢継続を認めていただきたい」

 ベルギー軍の将兵たちは挙ってベルギー解放軍総司令部に対して抗議を行った。

 だが、ベルギー解放軍総司令官の林忠崇元帥は、翻意しなかった。


「ベルギー軍の抗議はよく分かるが、最早、ベルギー軍以外が限界なのだ。どうか攻勢中止命令を受け入れてほしい。どうしても受け入れられないというのなら、総司令官に対する抗命と受け取る」

 林元帥は最後には半分、ベルギー軍の将兵を恫喝した。

 確かに、ベルギー軍以外の英仏米日軍の将兵は、林元帥の攻勢中止命令を受け入れている。

 ベルギー軍のみが我がままを言っていると取られても仕方なかった。

 ベルギー軍の将兵は不承不承、攻勢中止命令を受け入れた。


「やはりベルギー軍は攻勢中止命令に抗議しましたか」

 ベルギー解放軍総参謀長のペタン将軍は林元帥に半分苦笑いしながら言った。

「わしがベルギー軍の将兵だったら抗議した状況だから仕方ないがな」

 林元帥はニコリともせずに言った。

「これだけの大戦果を挙げたのです。ベルギー軍の将兵が欲をかきたくなるのも仕方ない」

 ペタン将軍は顔の笑みを消さないまま言った。


 9月1日から3日にかけてのベルギー解放軍の戦果は素晴らしいものだった。

 幅40キロ余り、奥行き40キロ近くの独軍戦線が完全に崩壊した。

 その中には独が不落であると喧伝していたヒンデンブルク防衛線の一部までが含まれていた。

 独参謀本部のルーデンドルフ参謀次長が戦後の回想録の中で、ベルギー解放軍の大攻勢の結果、連合軍の大攻勢の前には独軍の防衛線はほぼ無力化したと絶望的な想いに駆られたと記したくらいである。

 人的損害比率も独軍の絶望を深めるものだった。

 24個師団、35万名余りの独軍の兵員の内約10万人が死傷または捕虜となって失われた。

 一方、ベルギー解放軍28個師団、58万名余りの内死傷したのは7万名に満たなかった。

 しかも7万名近い損害の内1万名余りはベルギー軍だった。


 僅か実質半日の戦闘にしては、ベルギー軍の損害は異常に多い。

 何しろ28個師団とはいうもののその内のベルギー軍8個師団は戦闘に一切参加しておらず、4個師団7万名程のベルギー軍師団の将兵の内1万人以上が死傷するという結果となっている。

 ベルギー軍の将兵の戦意が余りにも高過ぎた余り、損害を度外視した攻勢を行った結果だった。


 勿論、ここまでの詳細な損害は戦後、双方の損害をつきあわせた結果、判明したものだが、この時でもお互いに大体のところは推察できていた。


「これだけの大戦果を挙げられては、本当に11月にはブリュッセルから独の国旗は引きづり降ろされ、ベルギー国王が帰還できそうだな」

 第18軍のフティエア将軍は慨嘆した。

 その横にいたマンシュタイン大尉は、その言葉に肯きつつ、疑問を訴えた。

「それにしても、何故、最後にベルギー解放軍はベルギー軍の参加を認めたのでしょう。ベルギー解放軍は最初からベルギー軍を参加させるべきだったのでは。そうすれば損害をベルギー解放軍は抑えられたでしょうに」

「政治を軍事に関わらせるべきではないが、全く無関係ではいられないということさ」

 フティエア将軍は完全に斜めに構えていた。

「ベルギー軍を急きょ参加させざるを得なくなったのさ。戦果を挙げ過ぎてな。全く羨ましい話だ」

 マンシュタイン大尉は得心した。

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