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第5章ー25

 9月3日午後、ベルギー軍も攻撃に参加されたいという第1臨時海兵軍団からの命令を受けて、ベルギー兵たちは勇んで最前線へと飛び出した。

 あれほど自分達が悪戦苦闘を強いられた独軍の三線陣地は日米連合軍の大攻勢の前に完全に崩壊しており、独軍は急造陣地で抗戦しようとしている。

 その光景は、ベルギー兵の士気を高揚させた。


「少しでも早く、自分の故郷を奪い返してしまおう」

「ここは俺たちの土地だ。お前たちはドイツに帰れ」

 ベルギー兵は口々に叫んで、独軍に挑みかかった。


「やれやれ、ベルギー兵は意気盛んだが、もう少し慎重にやってほしいな」

 大田実大尉は、ベルギー兵の援護に努めながら、内心でぼやいた。

 もちろん、口には決して出さないようにしている。

 もし、自分の発言が、ベルギー兵を非難していると捉えられ、周囲に広まったら、ベルギー兵と日本兵の間でトラブルになりかねない。

 だが、大田大尉がそう思うのは止むを得ない程、祖国奪還に賭けるベルギー兵の士気は高すぎ、独軍に対する攻撃に慎重さを欠いてしまっているのも事実だった。

 秋山好古将軍から警告されていたにもかかわらず、日本軍の戦車よりも前へ前へと出ようとしてしまい、日米の航空隊から誤爆される部隊も複数出てしまった。


「誤爆は避けないといけないことだが」

 日本海軍航空隊の現場の最高責任者である山本五十六少佐はぼやいた。

「きちんと取り決めは守ってほしいな。日本軍の戦車より東の部隊は容赦なく攻撃を加えてほしいという命令を我々は受けているのだから」


 少し時間が前後する。

 9月4日の朝、ベルギー軍の各師団から、日米航空隊に抗議が相次いだ。

 何故に、自分達は味方から爆撃を受けねばならなかったのかと。

 日米の航空隊はベルギー軍が誤爆を受けた状況を精査したが、どう見てもベルギー軍の方が悪いというのが精査結果の結論だった。

 前述したように、日本軍の戦車より東の部隊は攻撃を加えるようにという命令が日米の航空隊には出ており、ベルギー軍が誤爆を受けたという状況は、日本軍の戦車より東に出ていた部隊が基本的に誤爆を受けていたということが判明したからである。

(なお、ベルギー解放軍に所属している米軍の戦車の主力はルノー戦車であったために、9月3日の時点で日米ベルギーの攻撃を支援している戦車部隊はほぼ日本軍のみという状況にあった。)

 だからといって、ベルギー軍を無闇に非難もできない。

 祖国奪還に意気込むベルギー軍の将兵に対して、勇戦敢闘せず東に進むなとは誰も言えないからである。

 最終的に誤爆という事実について、日米軍は謝罪する一方で、林元帥からベルギー軍の上層部に誤爆が行われた状況を詳細に説明してもらい、誤爆の責任の一端はベルギー軍にもあることを認識してもらうという玉虫色の解決策が取られた。

 だが、祖国奪還の意気に燃えるベルギー兵の奮戦ぶりが敵味方双方に強い印象を与えたのも事実だった。


「過去4年間のベルギー軍の戦いぶりが嘘のようだったな」

 独第18軍司令官のフティエア将軍は素直にこの時のベルギー軍の攻撃の有様を称賛した。

「人間誰しも、故郷を護ろうとし、故郷へ帰ろうとする際に力が出るものだが、この9月3日午後のベルギー兵の奮戦ぶりは、本当に素晴らしいものだった」

 秋山将軍もベルギー軍を褒め称えた。

 だが、2人共、同時に思った。

 祖国奪還に燃える余り、協調性がない。

 今日1日は気合で持つだろうが、明日以降はベルギー軍に損害が続出しかねない。


 9月3日も夜に入ろうとしていた。

「これだけ戦果を挙げたんだ。少し休んで再編制せんとな」

 ベルギー解放軍総司令部で林忠崇元帥はそう言って、ベルギー解放軍の大攻勢中止を下令した。 

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