表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/120

第5章ー24

 急な増援として送られてきたベルギー軍4個師団の各師団長と参謀達は、9月3日早朝に臨時第1海兵軍団司令部を兼ねている日本第1海兵師団司令部に来訪してきた。

 ベルギー人達は、皆、高揚した顔をしていた。

 英仏米日軍が独軍の戦線に大穴を開け、広げてくれつつあるのだ。

 祖国、故郷の土地を少しでも早く回復する好機が訪れたのである。

 この際、ほんの僅かでもいい、自分達で祖国、故郷の土地を取り戻したい、皆、その想いを抱きながら、日本第1海兵師団司令部を訪れていた。

 日本軍からは、秋山好古大将と土方勇志少将、それに第4海兵師団の岸三郎少将を中心にした面々が急な打ち合わせに参加した。


 日本軍とベルギー軍との会話はフランス語で行われた。

 当時のベルギーの主な公用語はフランス語であり、全ての軍人はフランス語が話せた。

 もっとも、日本軍の中でもっともフランス語が堪能な秋山大将に言わせれば、ベルギー軍人のワロン語の訛りはかなり強かった。

 そのために、そんなにフランス語が得意でない土方少将らは、ベルギー軍の軍人の会話に中々ついていけない羽目になり、主に秋山大将がベルギー軍の軍人に対応することになった。


「どうか、我々ベルギー軍に、日米連合軍の先鋒の一翼を担わせてください」

 ベルギー軍の軍人は口々に訴えた。

「いいでしょう。祖国、故郷の土地を取り戻したい。その切なる想いは、我々にも分かります」

 秋山大将は暖かく答えた。

「それでは、先鋒の一翼を担わせてくれるのですか。どこに行けばよいのでしょうか」

 ベルギー軍の軍人達は、すぐにでも本来の所属師団に戻り、部下達を率いて赴く勢いで話し出した。

「ですが、一つ条件があります。我々の戦車の後をベルギー軍にはついてきていただきたい。そうしないと日米の航空隊に誤爆される危険があります。我々の戦車には上空の航空隊から識別できるように、日の丸等のマークを入れてあり、それより東にいる部隊は、独軍だとして、日米の航空隊は爆撃を加えたり、機銃掃射を加えたりしています。ベルギー軍の兵を、日米の航空隊に誤爆させるわけにはいきませんので」

 秋山大将は懇切丁寧にベルギー軍の軍人達に話した。

「確かに言われる通りですな。秋山将軍の言われるのはもっともです」

 ベルギー軍の軍人達も秋山大将の話には道理があると認めざるを得なかった。

「お分かりいただけて幸いです。我々はベルギー軍の増援を心から歓迎いたします」

 秋山大将はにこやかに答えながら、腹の中で思った。

 やれやれ、日英仏の3か国語が味方の中で飛び交う羽目になったか、部隊の指揮が本当に大変だ。


 9月3日の朝からベルギー解放軍の最後の気力を振り絞った攻撃が再開された。

 1日の朝には600両余りあった戦車は、最早300両を切っている。

 今日1日、力を振り絞った攻撃を行えば、少なくとも10日、おそらくは20日余りはベルギー解放軍は大攻勢を取れなくなるだろう、ベルギー軍以外の英仏米日軍の将兵はそう考えて攻撃に参加していた。

 だが、ベルギー軍のみは違っていた。


「ああ、俺の故郷の大地が見える」

「あそこに見えるのは、僕の故郷の教会の尖塔ではないだろうか」

 ベルギー軍の将兵は思い思いの会話を交わしながら、日本軍と共に午後の攻撃開始に参加する時を心待ちにしていた。

 中には目に涙を浮かべている兵までいる。

 祖国が独に侵攻されてから4年余り、ベルギー軍は祖国の僅かな土地の一部を死守してきた。

 いつかは祖国の土地全てを解放する時が来る、そう祈念しながら、これまで戦い抜いてきたのだ。

「ベルギー軍の将兵は攻撃を開始されたし」

 臨時第1海兵軍団司令部から命令が下され、ベルギー軍は攻撃を開始した。

 ご意見、ご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ