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第5章ー22

「容赦ない追撃を臨時第1海兵軍団は浴びせていますな」

 9月2日の夕刻、ベルギー解放軍司令部で参謀長のペタン将軍は思わず首を振りながら、最新の最前線の状況把握に努めていた。

 ホイペット戦車108両を追撃戦力の中核とした臨時第1海兵軍団は、戦闘に午後から投入されたにもかかわらず、その機動力を存分に生かして、独軍に猛烈な追撃を行い、独軍の戦線を10キロ以上も押し込んでいた。

 林忠崇元帥は、ペタン将軍の横に立って思っていた。

 独軍の戦線をこれで幅40キロ余り、最大で30キロ近くも押しやることに成功したようだ。

 久々の英仏米日統合軍の大成功と言えるだろう。

 それに、まだ明日がある。


 しかし、時代の流れだな、最新の最前線の把握は、航空偵察によるものとは。

 地図にグリッド表示を行い、その番号を航空機が打電してくることで、ベルギー解放軍は最前線の位置を把握しているのだ。

 最前線部隊に無線通信装置を運ぶことが追い付かず、航空部隊からの報告に司令部は頼らざるを得ない。

 西南戦争で有線通信が導入された時は、すごい技術だと思ったが、それよりも更に通信技術は進んでいる。

 そういえば、自分の初陣の戊辰戦争では伝令しかなかったな。

 時代の流れは本当に速いものだ。

 林元帥は、航空機からの打電報告を参謀が受けて、地図に最新の戦線を書き込むのを見ながら、ふとそんなことを想っていた。


「サムライにレザーネックの意地は示せているか」

 9月2日の夕刻、米海兵旅団長のハーボード少将は、部下に尋ねていた。

 2日に及ぶ攻勢の間、米海兵隊は先頭を日本海兵隊と競い合っていた。

「充分に示せていますが、そろそろつらいですな」

 参謀の1人がぼやいた後に続けた。

「何しろ、相手は戦車がいますから」

「そろそろ生身の人間の限界か。既に2日戦って、戦闘を競い合えたのだから、満足すべきかな」

 ハーボード少将は残念そうな口ぶりを示しつつ思った。

 そもそも規模が違う、向こうは4個師団なのに、こちらは1個旅団なのだ。

 そして、向こうの海兵隊は、とうとう切り札のホイペット戦車隊まで最前線に投入し、容赦ない追撃を加えているが、こちらには手持ちの戦車は無い。

 ここまで頑張れただけでも意地を示せたと言ってよいだろう、ハーボード少将は更に思いを巡らせて、空を仰ぐと、日本海軍航空隊所属の航空機が空を舞うのが見えた。

 その傍には、米軍の航空機も舞っている。

 日米共闘の成果は空でも挙がっているようだ。


「日米共闘で制空権を確保して、独の地上部隊に攻撃を浴びせる。空地一体の攻撃は、独軍を追い込んでいますね。これが最新の戦闘方法ですか」

 9月2日の夕刻、この日、2回目の地上攻撃任務を終え、基地に帰還しながら、草鹿龍之介中尉は前席の大西瀧治郎中尉に話しかけた。

「確かにこれが最新の戦闘方法だが、今のところ、地上部隊と完全な連携が取れるところまではいっていない。将来はそれができるようになりたいものだな」

「全くですな。一応、戦車の車体に、日の丸をでかでかと描くことで、戦車は見分けがつくようにしてくれていますが、それでも誤爆は怖いものですし」

 大西中尉と草鹿中尉は会話をした。

「それにしても、米軍機を助ける羽目になるとはな」

「全くです。油断していたようですな」

 独軍航空隊も意地を見せ、今日も百機近くを出撃させていたのだ。

 最早、独軍航空隊、怖るるに足らずと油断していた米軍機のある部隊は、奇襲を受けて混乱し、数機が落とされた。

 そこに大西中尉達は駆け付け、米軍機を救ったのだった。

「後から何か米軍から届くかもしれませんね」

 草鹿中尉は言った。

「何が届くかな」

 大西中尉はそう言いつつ、米軍機と共に基地を目指した。 

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