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第5章ー21

 栗林忠道中尉は、同僚の一木清直中尉や岡村徳長少尉らと一緒になってホイペット戦車に乗って独軍に追撃を掛けた。

 独軍は、第三線陣地までベルギー解放軍の大攻勢により抜かれたことから崩壊しつつあり、予備部隊が前線にまで駆け付けて、急造陣地を構築してそこによることでベルギー解放軍の大攻勢を食い止めようと苦心していたが、ベルギー解放軍の大攻勢は容赦のない代物だった。


「これだ、これこそが騎兵の本領なのだ」

 栗林中尉は思わず独り言をつぶやきながら、戦車に乗って独軍に追撃をひたすらかけようとしていた。

 より正確にいうならば、騎兵の本領としては半分の役目と言うべきかもしれない。

 敵軍を乗り崩して崩壊させるのが、騎兵の第一段階の役目だ。

 騎兵の第二段階の役目は、崩壊した敵軍に容赦のない追撃を浴びせかけ、敵軍の再編制を許さずに完全な崩壊に敵軍を追いやることだ。

 時代が時代だけに、騎兵の第一段階の役目は他の部隊に譲らざるを得ない。

 だが、騎兵の第二段階の役目、敵軍に対して容赦のない追撃を浴びせかけるという任務は、この戦車部隊が十二分に果たすことが出来る。

 そして、自分はその戦車部隊に所属しているのだ。

「ひたすら前進しろ。ブリュッセルへ、ベルリンへと進み、日章旗を掲げるのだ」

 戦場の心地よい香りにいつの間にか陶酔した栗林中尉は思わず絶叫した。


「何か叫び声が聞こえたな」

 パットン大尉は、後方から日本海兵隊の増援部隊が駆け付けてくるのを見ながらつぶやいた。

「さて、追撃戦の段階に移ったか。こうなると分かっていたら、ルノー戦車が恨めしく思えるな」

 そうパットン大尉達が乗っているルノー戦車の航続距離は最良の状態でも35キロに過ぎない。

 ルノー戦車は冷たい言い方をするならば、敵軍の陣地突破と言う任務に特化した戦車であり、敵軍に対して容赦のない追撃を浴びせかけるのには向いていない。

 ちなみに、ホイペット戦車の航続距離は最良の状態なら128キロに達する。

 敵軍、独軍に執拗な追撃を浴びせかけることが可能だった。


「戦車の性能を精神力で変えることはできないからな。独軍の第三線陣地を完全に崩壊させて、突破口を味方にこじあけてやれた。ここらあたりが潮時か」

 パットン大尉は思わず達観した口ぶりで話しながら、思った。

 独軍の第三線陣地まで完全に突破したのだ。

 米軍戦車部隊の攻撃としては充分な効果を挙げたと言えるだろう。

 それに、パットン大尉は思わず腹の中で笑いながら思った。


 急造の日米共同部隊でここまでの戦果を挙げられたのだ、これだけの戦果を挙げられたことで満足すべきだろう。

 日本の皇族とも知り合えたのだしな。

 数日前まで、日本の海兵隊を酷評していた自分が馬鹿に見えてくる、パットン大尉はそこまで思いながら、部下達の前進を押し止めて、後方から駆け付けてきた日本の海兵隊が前進していくのを見送った。


「ひたすら追撃を掛けろ。独軍を再起不能にするのだ」

 秋山好古将軍は自分の戦車の乗員にしか聞こえないことが分かってはいたが、思わず叫んでいた。

 独軍は完全に敗走しつつある。

「このまま行けば、ブリュッセルへの150キロ近い道のりの内、半分は踏破できるのではないか」

 秋山将軍は、そう内心で思うようになっていた。

 日本海兵隊の将兵は、疲労していたはずの第2、第3海兵師団まで、気力を振り絞って追撃に協力しようとしている。

「さすが、サムライよ。林忠崇元帥たちが手塩にかけて育てた精鋭よ」

 と口に出しながら、内心で思った。

 海兵隊は幕府陸軍の末裔だ、戊辰戦争で敗北した幕府陸軍がこれ程の精鋭に育つとは、歴史の皮肉と言うべきだろうか。

 秋山将軍が我に返る頃、9月2日は夕闇が迫っていた。 

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