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第5章ー20

「完全に頃合いだとみるが、参謀長はどう考える」

 9月2日の朝、ベルギー解放軍総司令官の林忠崇元帥は、参謀長のペタン将軍に問いかけた。

「よろしいでしょう。第1海兵師団の主力と第4海兵師団を投入しましょう。昼前に前線に赴くでしょう」

 ペタン将軍は答えた。

 ベルギー解放軍の最後の切り札、第1海兵師団の主力と第4海兵師団でダメ押しの攻撃を更に加え、独軍の戦線に大穴を穿つのだ。


「土方、1個戦車連隊を指揮下から抜かれたのは不満か」

 日本欧州派遣軍総参謀長の秋山好古将軍は、第1海兵師団の司令部に居座って、師団長の土方勇志提督に問いかけていた。

「不満が無いと言えば嘘になりますが、どうして、秋山将軍がここにいるのかの方が私には気になりますが、どういうご事情で」

 土方提督は、思わず半目の表情になった。

 どうにも嫌な予感しかしない。

「決まっておる。わしが直接に第1海兵師団を督戦して、独軍の陣地に大穴を穿つためだ。日露戦争のときは、ハルピンまでは行けなかった。だが、今回は違うぞ。ブリュッセルに何としても行ってやる」

「参謀統帥は止めていただけませんか」

 土方提督は、秋山将軍を諌めたが、いきりたっている秋山将軍を止めることはできない。

「参謀統帥とは、地位が下の者が勝手に部隊を動かすことだ。土方より、わしの方が地位が上だろうが、参謀統帥に当たるわけが無かろう」

 秋山将軍は屁理屈をこねた。

 こりゃ、ダメだ、秋山将軍に事実上、第一海兵師団を任せるしかないか、実際に戦車を騎兵として扱うつもりなら、自分より秋山将軍が上手なのは間違いないしな、土方提督は諦めることにした。


「第1海兵師団と第4海兵師団は前進せよ。なお、臨時第1海兵軍団とこの部隊を呼称し、軍団長には秋山好古将軍を任命する」

 9月2日午前、ベルギー解放軍司令部からの電文が第1海兵師団に届くと、秋山将軍は躍り上って大声で叫んだ。

「さすが、林元帥、良くわかってくださっている。土方、わしが全部、指揮を執るのにまだ文句をつけるのか」

「はい、分かりました。文句はつけませんん」

 土方提督は肩をすくめて、そういうしかなかった。

 考えてみれば、林元帥と秋山将軍は日露戦争の奉天会戦の時も共闘している、以心伝心で林元帥は秋山将軍の心情を推測し、第1海兵師団司令部に秋山将軍が居座っていると読んでいたのだろう、土方提督はそう割り切ることにした。


「臨時第1海兵軍団、前進せよ。側面を気にせずにひたすら前進だ」

 土方提督が秋山将軍の行先に気が付いた時には、秋山将軍は第1戦車連隊のある戦車の上で大声を上げて、周囲に号令をかけていた。

 まるで、秋山将軍は子どもに返ったようだ。

 だが、この光景を見れば、秋山将軍が子どもに返りたくなるのも分かる。

 日の丸を付けた戦車100両余りが前進しようとしている。

 その後方には数百台の自動車が海兵隊員を満載して、前進しようとしている。

 自動車の中には装甲されたものが何台もあり、戦車部隊の補助が出来るようにもなっている。

 これ程の部隊を率いるというのは、自分でも心躍るものだ。


「これが、自分の初陣か」

 栗林忠道中尉は奇妙な感覚を覚えざるを得なかった。

 まさか、フランスの地で海兵隊の軍服を着て、戦車に乗り込んで初陣を飾る羽目になるとは。

 自分としては陸軍の服を着て、騎兵として初陣を飾るつもりだったのに。

 だが、事実上の指揮官を務めているのは、あの秋山騎兵大将だ。

 あの秋山将軍の下、自分は初陣を飾れる。

 そして、今から行うのは騎兵の本領ともいえることではないか。


「全車、前進せよ」

 戦車中隊長の大田実大尉から、手旗信号が振られた。

 栗林中尉の乗る戦車は前進を開始した。 

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