第5章ー19
9月2日朝、ベルギー解放軍の大攻勢は再開された。
最早、独軍の三線陣地は各所で綻びている。
動く戦車は気が付けば400両程に減っていたが、再度、戦車を押し立てて、ベルギー解放軍は更なる前進を試みようとした。
「一晩、休んだだけなのに、独軍は頑張っているな」
北白川宮大尉はつぶやいた後、部下の土方歳一少尉らの小隊長を集め、更に、いつの間にか共闘している米軍の戦車中隊長と話し合おうとした。
米軍の戦車中隊も損耗しており、最初は18両あったはずが、独軍により破壊されたり、機械的故障で動かなくなったりで、今や動いているのは13両となっていた。
「貴官らは、どこの所属か。私は、米軍第304旅団第1大隊所属の第2中隊長の大尉、パットンだ」
米軍の戦車中隊長が、まず名乗った。
「私は、日本海兵第3師団第7海兵連隊第1大隊第3中隊長の大尉、北白川宮です」
北白川宮大尉は、はったりを少し効かせようと自らが皇族であることを明かした。
パットン大尉は驚いた。
「何と。皇族が最前線に」
「日本の海兵隊では、皇族と言えど最前線で戦うのが当たり前ですが」
何を驚いているのか分からないという素振りを示し、北白川宮大尉は更にはったりを効かせた。
「いや、まさか日本の皇族とここでお会いするとは思いもかけず。まことに失礼いたしました」
昨日の日本海兵隊の敢闘を見て、日本人に対する評価を改めていたパットン大尉は更に評価を上向きに改めて、慌てて敬礼した。
北白川宮大尉は答礼した後で、パットン大尉と話し合おうとした。
もちろん、パットン大尉に否という返答は無かった。
「米軍のルノー戦車を前に立てて、我々日本海兵隊員が後を続きましょう。基本的に独軍の抵抗拠点にぶつかったら、そこに米軍は砲撃を浴びせてください。我々が共同攻撃をして破壊してみせます。後は適宜、臨機応変に相談しつつと言うことで」
北白川宮大尉は、大雑把な基本方針を示しつつ、腹の中で思った。
この大尉はどちらかというと猛将といった趣がある。
前に立ってほしい、といえば、すぐのってくるだろう。
実際、パットン大尉は乗り気になった。
「任せてください。喜んで日本の海兵隊の盾になってみせます」
パットン大尉は、日本の海兵隊の評価を暴騰させており、部下達に進んで号令をかけた。
「いいか、サムライの前に立って進め、サムライは必ず後についてきてくれる。サムライの後を進むような奴は、俺の部下から追い出すぞ」
パットン大尉の戦車中隊と北白川宮大尉の海兵中隊は臨時の戦闘部隊として前進を再開した。
土方少尉は、米軍の戦車の後を追従しつつ思った。
北白川宮大尉は、本当に人をのせるのがうまいな、初対面の米軍大尉を心服させてしまった。
さて、戦車を盾に前進していくか。
独軍も第三線陣地を破られてしまっては、急造陣地で抵抗するしかなくなっている。
ルノー戦車には1人用砲塔なのが泣き所だが新開発の旋回砲塔が搭載されており、少なくとも乱戦の中、独軍陣地の砲撃に威力を発揮している。
何しろ、独軍陣地を砲撃しようとすると、戦車の車台ごと移動しないといけないのと、砲塔旋回だけで砲撃できるのとでは、砲撃に移る速度が違ってくる。
独軍の小銃射撃では、ルノー戦車は止められない。
そして、米軍の戦車に独軍が気を取られていると、海兵隊員が匍匐前進して、独軍の陣地の占領を試みていく。
こういった光景は、日米連合軍が攻勢を行った中央では各所で見られた。
別の場所では逆に日本の戦車が米軍の歩兵を支援していた。
鈴木貫太郎少将やマッカーサー大佐たちが期待した以上に、日米連合軍の兵士たちは肩を並べて共闘し、独軍を各所で圧倒し、更に前進した。
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