第5章ー17
「おい、今、追従しているのは米軍で無い気がするが、どこの部隊だ」
パットン大尉は部下の戦車兵達に尋ねた。
朝日が昇り、明るくなった中を、パットン大尉率いる戦車中隊は完全に突出し、見知らぬ部隊と独軍の第三線陣地を共同攻撃しようとしていた。
「あれは間違いなく軍服とかからすると日本の海兵隊、サムライですな。我が軍の兵が誰一人ついてきていないのに素晴らしい」
戦車の操縦士が、パットン大尉に応えると、パットン大尉は絶句しつつ思った。
「サムライとは、それほどのものか」
当時のアングロサクソン系米国人の多数派と同様に、パットン大尉は有色人種を差別しており、白人以外は圧倒的に劣っている存在だと考えていた。
だが、白人からなる米陸軍歩兵部隊が自分達に追従していないのに、サムライは平然と追従して自分達と共同攻撃をしようとしている。
立派な存在には、当然、敬意を払うのが当然で、敬意を払えないようでは、人間ではない、パットン大尉はそうも考えていた。
「サムライは間違いなく敬意を払うに値する存在だ。その最高指揮官たる林忠崇元帥を知らぬこととはいえ、自分は侮辱していたのか」
パットン大尉は、自分のかつての言動に恥じ入る余り、思い切り戦車の中で縮こまってしまった。
さすがに第三線陣地となると独軍もベルギー解放軍を迎撃できるだけの態勢に部隊を立て直している。
米軍戦車部隊と日本海兵隊の臨時混成部隊は、容易には第三線陣地を突破できなかったが、ベルギー解放軍には続々と援軍が駆け付けてきたのに対し、独軍には増援が中々駆けつけられなかった。
「畜生、全力出撃が出来たらな」
大西瀧治郎中尉はぼやきつつも、第三線陣地の突破を阻止しようと急行している独軍の頭上に爆弾を投下した。
周囲には数百機の英仏米日軍航空隊が乱舞しているが、大西中尉には不満があった。
「まあまあ、仕方ないですよ。インフルエンザのせいで、日本陸海軍航空隊の操縦士の2割近くが出撃禁止になっていますし」
後席の草鹿龍之介中尉は、大西中尉をたしなめつつも周囲の警戒を怠らなかった。
事実、独軍航空隊が迎撃しようと自分達に向かってくるのが見える。
「それは分かっているのだが、もう少し攻撃力を高めたいではないか。何しろ完全に独軍の移動を阻止するには程遠いのだから」
大西中尉は愚痴をこぼしたが、草鹿中尉は流すことにした。
全く贅沢なことを大西中尉は言うものだ。
「我が軍の上空を舞うは敵機のみか」
マンシュタイン大尉は半分達観した心境になりつつ、空を見上げながら呟いた。
自分の所属する第18軍司令部は、半地下に潜り、敵機に見つからないようにしている。
そして、第18軍の隷下にあり、ベルギー解放軍と最前線で対峙していた師団司令部の幾つかからは連絡が完全に途絶えている。
おそらく、戦闘の末、全滅したか、捕虜になったか、どちらかだろう。
ベルギー解放軍の突破を何としても阻止しようと予備部隊を急行させているが、英仏米日軍航空隊の空からの攻撃の前に予備部隊の移動は困難を極めていた。
それに、最前線に予備部隊がたどり着いたとして、どこまで役に立てるだろうか。
執拗な英仏米日軍航空隊の物資集積所等への阻止攻撃は、独軍の物資欠乏に拍車をかけていた。
例えば、帳簿上は300機はある筈のこの方面の独陸軍航空隊の実際の出撃可能数は、物資欠乏による共食い整備も相まって、100機を辛うじて超える惨状になっている。
それでも、黎明を期して全力出撃を独陸軍航空隊は行ったが、10倍以上の英仏米日軍航空隊の数の暴力の前にほとんどが独軍の第三線陣地上空にたどり着けずに多数の損害を受けて基地に帰還していた。
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