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第5章ー16

 前回の戦訓をいろいろ検討した結果、ベルギー解放軍の攻勢は航空機との連携をさらに深めた攻勢になっていた。

 実際の攻撃が始まる5日前から、夜間空襲を独軍に加えるということさえやっている。

 最初の1日は、また攻勢が発動されるのか、と警戒していた独軍も5日目にはすっかり警戒を緩めており、ベルギー解放軍の砲声まで轟きだしたことで慌てる羽目になった。


「敵が油断した隙を衝け、というのは確かに基本だが、嫌らしいことをする。サムライがすることか」

 マンシュタイン大尉はベルギー解放軍の砲声を聞いて、一言嫌味を言ったが、確かに効果的だと内心では認めざるを得なかった。

 夜におちおち眠れないというのは、地味だが前線の将兵にとってつらいものだ。

 そして、ベルギー解放軍は予め分かっていることなので、昼間に交代で眠ることで疲れを取ることもできるが、こちらにはできないのだ。


 ベルギー解放軍の攻撃は、ある意味で前回の焼き直しだった。

 少しずつ弾幕が移動しつつ砲撃を加えていき、その後を戦車と歩兵の混成チームが進む。

 夜の闇に加え、煙幕弾を多用することで、独軍の目をくらまし、戦車と歩兵は前進するのだ。

 だが、これはベルギー解放軍の将兵にとってもつらい前進になった。

 何しろ夜の闇と煙幕で極めて見通しが悪いのだ。

 砲弾の弾着音を頼りに多くの将兵が前進する羽目になった。

 だが、これが結果的には幸いした。


 独軍の第1線陣地を固めていた将兵は完全にパニックに襲われる羽目になった。

 何しろ、どうせまた単なる夜間空襲と油断していたところにいきなり砲声が轟きだしたのである。

 慌てて寝ぼけ眼をこすり、飛び起きて、取るものも取りあえず武装して陣地を固めようとするが、夜の闇と煙幕で完全に視界がきかない。

 懸命に目を凝らしているところに、ベルギー解放軍の戦車と歩兵の集団が突っ込んできたのだ。

 これを落ち着いて迎撃しろ、という方がどうみても無理な話だった。

 ベルギー解放軍の左翼でも、中央でも、右翼でもたちまちのうちに独軍の第1線陣地は蹂躙された。


 午前5時過ぎ、少しずつ夜の闇は明けようとしていた。

「進めや進め」

 パットン大尉は指揮下にある戦車中隊を急き立てた。

 そのために本来なら随伴するはずの歩兵とは完全にはぐれ、パットン大尉率いる戦車中隊は先頭に立って単独で独軍の第2線陣地に乗り込む羽目になった。

「あれは、ただの馬鹿だな」

 それを望見した北白川宮大尉はつぶやいたが、友軍を放っておくわけには行かない。

「急いで追いかけろ」

 北白川宮大尉が指揮する海兵中隊は、独軍の第2線陣地にパットン大尉率いる戦車中隊の後に続いて乗り込んだ。

 まだ、第1線陣地が抵抗していると思っていた独軍の第2線陣地の将兵は、米軍の戦車から砲撃や銃撃を浴びせられ、更に日本の海兵隊が白兵戦を挑んできたことに度肝を抜かれた。

 それでも何とか気を取り直して独軍の将兵は応戦しようとするが、日米混成の戦車と海兵の部隊は、どんどん駆けつけてきて、自分達に更なる圧力を加えてくる。

 更に明るくなってきたことで、ベルギー解放軍の航空優勢がますます効果的に働くようになっていた。


「こいつはいい。どんどん地上を掃射してくれる」

 英仏米日各国の航空隊は思う存分、地上部隊に対して近接支援任務に徹した。

 本来なら、航空隊の天敵ともいえる対空部隊がこれを迎撃するはずだった。

 だが、地上部隊が接近しつつあり、視界に入るようになっていては、安心して対空戦闘を行うことはできない。

 対空砲火がそんなに濃密でないことに気づいた英仏米日の航空隊は思う存分暴れ回った。


 午前8時前、独軍の第2線陣地もベルギー解放軍に各所で抜かれてしまった。

 

 

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