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第5章ー13

 日本の陸海空それぞれの部隊で、インフルエンザ患者の多発に頭を抱え込むようになっていたが、これは日本の部隊だけではなかった。

 英仏米それぞれの前線部隊でも、日本と同様にインフルエンザ患者が多発しつつあった。

 そして、各国の補充兵の間でも同様の状況が引き起こされており、各国軍司令部は頭を抱え込んでいたのである。

 だが、攻勢は続けられねばならなかった。


「本当は、もう少しインフルエンザ患者の発生が収まってからにすべきでしょうが」

 8月下旬、ベルギー解放軍参謀長のペタン将軍は渋い顔をしながら、総司令官の林忠崇元帥と相談していた。

「これ以上、第二次攻勢の開始を遅らせては、他の部隊との協調も取れませんし、独軍に一息つかせてしまいます。やはり、9月1日にはベルギー解放軍の第二次攻勢を発動すべきか、と進言します」

「止むを得んでしょうな」

 林元帥はそう返答しながら、内心で思った。

 まるで、西南戦争挙兵時の西郷隆盛さんになった気分だ。

 どうにも気が重い決断をする羽目になった。

 せめて、インフルエンザ患者の発生が下火になりつつあるのなら、気が楽になるのだが、下火になるどころか、収まる気配が全くないのだ。

 兵全員がインフルエンザにり患して治癒しないと収まらないのではないか、とさえ思えてくる。


「第二次攻勢の規模はどうする。ベルギーの部隊は、わしの見る限り、予備部隊に回した方が相当だろう。あくまでも一時的にわしが預かっているものだし、これまでに積極的に攻勢に出た経験がない。更に言うなら、戦車と共同攻撃した経験もないしな」

「同感です」

 林元帥の問いかけに、ペタン将軍は肯いた。

「日米連合軍6個師団を中央の矛先とし、英軍4個師団を左翼(北側)から、仏軍4個師団を右翼(南側)から、助攻させるというのはどうか。助攻といっても、本気で攻めてもらう。その突破がうまく行ったところに、日本海兵隊2個師団が突破攻撃を仕掛ける。我々に騎兵は無い以上、戦車と歩兵の組み合わせで突破攻撃を仕掛けるしかない。そして、その任務にもっとも向くのは、我が日本海兵隊であると自負するが、自己評価が高すぎるか」

 林元帥は言葉をつないだ。

 その言葉を、ペタン将軍は否定しなかった。

「先輩のお言葉通りかと。我が仏軍からは「エラン・ヴィタール」の精神が完全に失われています。英軍のANZACは精鋭ですが、最初の陣地攻撃に投入すべきと考えます。米軍は、攻撃精神こそ旺盛ですが、戦場経験が不足しています。やはり、日本海兵隊が突破攻撃を行うのが相当でしょう」

「では、その方針で動こう。それにしても16個師団を総投入するし、補充兵も順調に届いていない以上、9月いっぱいは攻勢を取れなくなる覚悟がいるな」

「止むを得ないでしょう」

 林元帥とペタン将軍の会話は終わった。


 この基本方針を伝達された各国軍は、それぞれ動きを示し、準備に取りかかかった。


 米軍は中央を任されることになり、これまでの戦訓を取り入れ、戦車と歩兵を連携させての戦術訓練に取り掛かった。

 その中には当然、この男もいた。

 

「中央の最先鋒を任されるのは、本望と喜ぶべきなのだろうが」

 パットン大尉はぶつぶつ言った。

「いい加減にしろ。お前のお蔭で、こちらは肩身が狭いんだ」

 周囲の上官から同僚までパットン大尉に非難を浴びせた。

 何しろ、パットン大尉の失言のお蔭で、米軍4個師団はベルギー解放軍の指揮下に入る羽目になり、英仏軍からの冷たい視線を浴びていたのである。

 普段は傲岸不遜を絵に描いたような態度を示すパットン大尉だが、さすがに周囲からこれだけの非難を浴びては首をすくめ、訓練に励まざるを得なかった。

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