第1章ー3
林忠崇提督は、日本欧州派遣軍総司令部に戻りながら思った。
何でわしが参謀将校の役割を果たしているのだろう。
本来から言えば、わしは軍司令官の役割を務めたいのだが。
仕方ないか、実際にわしが動かせる兵力は一切ないのだから、参謀将校の役割を果たすしか無い。
日本欧州派遣軍総司令部に戻り次第、林提督は欧州派遣艦隊総司令官を務めている八代六郎提督以外の将官全てを集めた会議を開いた。
林提督はできる限り内心を押し隠した話をしたかったが、内心を完全に隠しきることはできなかった。
「完全自動車化して戦車を集中配備する第1海兵師団はともかくとして、それ以外の3個師団の補充再編制にはどれくらい掛かる」
林提督の質問に、日本軍の将官は顔を見合わせたが、黒井悌次郎提督が意を決して林提督に答えた。
「どんなに急いでも最前線に投入できるのは5月にはなります。勝った勝ったと言っていますが、チロルでの戦いにそれなりに我々は損耗したのです」
「分かってはいたがな」
林提督は肩を落とした。
日本軍の最大の悩みは、補充再編制がままならないことだった。
英仏のように何十個師団もいるのなら、入れ代わり立ち代わり損耗した師団を補充に回し、補充が完了した師団を最前線に再投入するといったことが行える。
だが、日本軍は4個師団しか欧州にいない。
それに本国から補充兵が届くのは何か月も先だ。
「どうしても4個師団全てを前線に投入するからな。一度、消耗してしまうと前線復帰が何か月も先になるのは止むを得ないか。航空隊の現状は」
林提督の矛先を変えた質問に、山下源太郎提督と福田雅太郎将軍はお互いに少し話し合った後、山下提督から回答した。
「大量の新兵が到着していますが、その代りその新兵の訓練等に、歴戦の搭乗員を回して当てざるを得ません。それに戦闘機、爆撃機共に機種転換を行っています。戦闘機はスパッド7からスパッド13に転換中であり、爆撃機は同じDH4ではありますが、米国製のリバティエンジンを搭載した全くの新型機に機種転換を行っており、やはり5月まで待っていただかないと」
「航空隊もどうにもならんか」
林提督はため息を吐いた。
「八代六郎提督率いる欧州派遣艦隊は黙々と地中海の通商保護任務に当たっていますから、日本軍が働いていないことは無いですからね。米国のパーシング将軍あたりが文句を言ってきたら、我が日本海軍は地中海で奮闘中だ、と答えるしかないですな」
秋山好古将軍は混ぜっ返した。
「確かにわしは日本海軍の提督だがな」
林提督は気を取り直すとともに軽口を叩いた。
列席している日本軍の将官に笑みが広がった。
林提督は確かに日本海軍の提督だが、海戦の指揮を執ったことは一度もない、陸戦の指揮しか経験がないのだ。
だが、その陸戦で日本海軍の軍人として常勝不敗の名声をここ欧州に赴いてからも博している。
「全く困りますな。我が日本海軍も陸式海軍と言われても仕方ない有様です。海軍航空隊も地上の制空権確保に地上部隊の直接支援等ばかり行っております」
山下提督は更に追い討ちをかけるような発言をしたが、列席者の笑いは広がるばかりだ。
「いいではないか。ここまで地上部隊との連携が得意な海軍航空隊は英仏共に保有していないぞ。地上部隊との連携に関しては世界最高の海軍航空隊なのは間違いない」
福田将軍が言った、その横で秋山将軍も肯いた。
「仕方ないか。フォッシュ将軍やヘイグ将軍に日本軍の現状を報告して納得してもらおう」
一しきり笑いあった後で、林提督が言うと列席者全員が肯いた。
「それにしても独軍最後の大攻勢を子飼いの兵を率いて迎え撃ちたかったなあ」
林提督の述懐は列席者全員の胸に響いた。
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