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第5章ー9

 8月8日、太陽が中天にかかる頃には、独軍参謀本部と英仏日統合軍総司令部は好対照を示していた。


「この大戦は独の敗北に終わることが決まった。独陸軍史上、暗黒の日に8月8日はなるだろう」

 独軍参謀本部では、実質的な参謀総長であるルーデンドルフ参謀次長が、アラス近辺のベルギー解放軍の初陣の結果が入るたびに、憂色を深め、頭を抱え込みながら呟いていた。


「さすが、林提督、いい仕事をしてくれた。英仏日統合軍の大攻勢に、これで弾みがつく」

 英仏日統合軍総司令部では、総司令官のフォッシュ将軍がアラス近辺からの情報が入るたびに、喜色を浮かべていた。


 最終的なベルギー解放軍の初陣の戦果だが、日米豪連合軍は1万人近くが死傷した。

 また、戦闘が終わるまでに、実戦に参加した約400両の戦車の内約50両が破壊され、更に約100両が要修理状態となり、動かなくなっていた。

 決して軽い損害と言えるものではない。

 だが、その代償として独軍の三線からなる塹壕陣地は幅40キロに渡り、完全に突破されていた。

 独軍はいわゆる二線級の部隊によって編制された「塹壕師団」のみの損害で済んだとはいえ、約2万人が死傷し、約1万5000人が捕虜となった。

 結果的に独軍6個師団が要再編制状態となる大敗を喫したのだ。


 更に問題なのは、塹壕陣地を突破するまでに予備部隊を投入する時間的余裕が、今回の新戦術では独軍に完全に失われていたことだった。

 まさか実質2時間で塹壕線が突破されては、突破されるまでに予備部隊が駆け付ける時間的余裕等、独軍にある筈がない。

 このような攻勢を繰り返されては、独軍が幾ら予備部隊を準備していても無意味であり、英仏米日統合軍に塹壕線を突破された後は、機動戦を強いられて、劣勢な独軍がますます劣勢な戦闘を強いられるのは自明の事柄と言って過言ではなかった。


 そして、何とか独軍はこれ以上のベルギー解放軍の前進を阻止できたとはいえ、実際にはベルギー解放軍が前進しなかっただけだというのを、両軍ともに承知していた。

「次の攻勢では、更なる戦果拡張を果たして見せる」

 とベルギー解放軍の上は総司令官の林忠崇元帥から末端の兵までが、意気軒昂だった。

「次の攻勢では、おそらくベルギー解放軍は更なる突破に成功するだろう」

 と対照的に独軍の前線部隊では将兵が完全に意気消沈していた。


 ベルギー解放軍の初陣がこれだけの結果になっては、お互いの総司令部が対照的な状態に陥ったのは、ある意味で当然のことだった。


「とりあえず、ベルギー方面に増援部隊を送れ。これ以上の戦果拡張を英仏米日統合軍に許すわけには行かん」

 ルーデンドルフ参謀次長は吠えたが、その舌の根も乾かない内に驚愕する羽目になった。

「仏軍東方集団、8月10日、サン・ミエルで大攻勢発動」

 この第一報に、独軍参謀本部は震撼した。


「確かに、フォッシュ将軍やヘイグ将軍の命令は正しいが、どうも気に食わん」

 パーシング将軍はぶつぶつ言ったが、それでも自分でも正しいと判断した大攻勢を行わないほど狭量ではなかった。

 仏軍東方集団は、その兵員の7割を米軍が占めており、実際には米軍の集団と言ってもよく、その総司令官にはパーシング将軍が事実上充てられていた。

 パーシング将軍は、英仏米日統合軍総司令部の命令を受けて、8月10日に西部戦線の最南端に近いサンミエルで大攻勢を発動したのである。

 西部戦線の最北端に近いアラス近辺のベルギー解放軍による次なる大攻勢に備えようとしていた独軍にとって、この大攻勢は北方へと向かう予備部隊の足止めとなった。

「振り子のように北端と南端で攻勢を加えて、独軍を崩壊させるか」

 パーシング将軍はそうつぶやいた。



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