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第5章ー4

 ベルギー解放軍が攻勢の初陣を飾ろうとした際に、戦車部隊との連携以外にも内部で問題になった点は多々ある。

 その一つが航空支援だった。


「もう少しゆっくり飛んでください。写真を撮るのには低速で飛んでいる方がいい」

 草鹿龍之介中尉は、操縦士の大西瀧治郎中尉に注文を付けながら、大量の航空写真の撮影を試みていた。

「全くこちらがいらいらしてくる。もう少し何とかならんのか」

 大西中尉はぶつくさと文句を言いながらも、草鹿中尉の注文通りに低速飛行をしていた。

「まあまあ。独軍の前線の詳細を掴んでおくのは攻勢を成功させるためには何としても必要です。それに予め詳細を掴んでおけば、対空砲火もかわしやすくなる」

 草鹿中尉は大西中尉をなだめながら、独軍の前線陣地の詳細な写真撮影を済ませた。


「それにしても、独軍航空隊が出て来なくなりましたね」

 飛行場への帰路、大西中尉の気分を少しでも変えようと、草鹿中尉は大西中尉に話しかけた。

「そう言われればそうだな」

 大西中尉もあらためて気づいたようだった。

「何か悪巧みを独軍航空隊は考えているのではあるまいな」

「可能性はありますが、大攻勢前の航空偵察阻止任務を放っておくほどの悪巧みは考えにくいのでは」

「確かにそうだな」

 大西中尉と草鹿中尉は会話した。


 実際問題として、独軍航空隊は今年の3月から4月にかけて行われた独軍の春季大攻勢の損耗から少しでも回復するために、それ以降は積極的な出撃が禁止されていた。

 これについては、一部の部隊から、積極的な出撃を行わないことにより、英仏米日連合軍の航空隊の整備を順調に進めることになるのではないか、それにより、味方よりも敵を利する結果が招来されるのではないか、という懸念が表明された。

 だが、春季大攻勢の失敗により意気消沈していた独軍参謀本部は、そういった一部の部隊の声を無視し、部隊の整備に努めた。

 確かに敵との交戦を避けることで、部隊整備が進んだという功績が挙がったのは事実だったが、その一方で独軍航空隊の隊員の多くに、大手を振って敵の英仏米日連合軍の航空隊が味方部隊のいる上空を飛んでいるにも関わらず、自分達は基本的に迎撃できないという屈辱を味わうという事態を招来させ、隊員の士気を低下させるという結果を招いた。

 今年の8月から始まった英仏米日連合軍の大攻勢に対して、独軍航空隊の行動が低調だったのは、この独軍航空隊の隊員の士気が低下していたという事実が大きい。


「とりあえず独軍の前線陣地の写真撮影が完了した以上、この後、自分達は英米軍との連携能力を高める訓練に集中しないとな。草鹿もそう思うだろう」

 大西中尉に話を振られ、草鹿中尉も同意して言った。

「ええ確かに、連携能力を高めて英仏米日連合軍の大攻勢を成功させねばなりませんね」

 そう言いながら、草鹿中尉は内心でうんざりした。

 少しでも休みましょうよ、大西中尉、少しは訓練を休んでも罰は当たりませんよ、草鹿中尉は内心で不平をこぼしまくった。


「よく言った。草鹿中尉。賛成してくれて嬉しいぞ。月月火水木金金。昼間8時間訓練したら、更に夜間にも4時間訓練できてこそ、日本軍の精鋭の証しだ。さすがに自分もそこまでは言わないが、できる限り、訓練に努めて大戦果を挙げようではないか」

 草鹿中尉の気持ちを無視して、大西中尉は意気軒昂に訓練に励むことを宣言した。

 一人でもそういった存在がいると、悪い意味の日本人の集団心理が働くことになる。

 その結果、日本陸海軍航空隊は猛訓練に励む羽目になった。

 そして、英仏米日連合軍の大攻勢を前に、日本陸海軍航空隊は英米仏といった他国の地上部隊とも連携を取れるようになっていた。

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