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第5章ー3

「本当にいいのですか?」

 モナッシュ将軍は思わずベルギー解放軍総司令官の林忠崇元帥に問い返してしまった。

「いいとも、ANZAC2個師団に加え、米軍1個師団と戦車旅団1個、それに我が日本軍の戦車師団1個で存分に腕を振るってくれ。少ない兵力で済まない。もっと多い兵力にした方がいいのだろうが」

「いえ、充分すぎます」

 林元帥が自分に与える兵力が少なくて気兼ねしていることに気づいたモナッシュ将軍は慌てて林元帥を止めた。

 自分としては、1個師団以下で試すつもりだったのが、4個師団以上を任されたのだ。

 自分の想定より遥かに大きな規模で試すことになる。

 モナッシュ将軍は武者震いが止まらなかった。


 アラス近辺で独軍の塹壕線突破を試みる英米日連合軍の規模は、ベルギー解放軍の初陣としては大きすぎると評価されても仕方ないくらいだった。

 歩兵3個師団に加え、戦車師団1個、戦車旅団1個が基幹兵力として投入される。

 更に独立戦車旅団が英軍から増派される計画があった。

 総兵力は約6万人だが、戦車は400両以上に達しようとしていた。

 支援砲兵も仏軍からもかき集めたことから、迫撃砲まで入れれば5000門近くに達する。

 航空機も戦闘機9個飛行隊、爆撃機15個飛行隊がかき集められた。

 その中には、この春に独軍第1戦闘航空団を壊滅させた日本海軍航空隊まで含まれている。


「もう少し増やしたいものだな」

 林元帥は笑いながら言ったが、

「どれだけ規模を大きくすれば気が済むのですか」

 と、ペタン将軍や他の将軍(秋山好古将軍も含めた)連の総突込みを受け、

「分かった。分かった」

 と苦笑いして収める始末になった。


「まずは戦車と歩兵の連携だ」

 モナッシュ将軍は、戦車と歩兵の連携強化に努めることにした。

 実は、ANZAC軍団の歩兵達は、以前「アラスの戦い」において、英軍戦車隊の支援を受けれられるはずが、全く受けられなかったという苦い経験があり、それ以来、戦車は役立たずと言う想いを抱く歩兵がほとんどを占めていた。

 モナッシュ将軍は、ANZAC軍団の歩兵部隊と日米の戦車部隊とで、できる限り連携行動を訓練することにより、歩兵部隊と戦車部隊の間の不信感を取り除くことに努めようと考えた。


「歩兵の盾になれか。言うのは簡単ですがな」

 連携行動訓練が始まって早々に岡村徳長少尉はぼやいていた。

 愛車ホイペットはこういう行動に向いた戦車ではない。

 どちらかというと第2戦車連隊の装備しているルノー戦車の方がこういう行動に向いているだろう。

 そう思いながら、岡村少尉は訓練に励んでいた。

 岡村少尉は声には出していないつもりだったが、実際は声に出ており、大田実大尉に聞かれていた。


「馬鹿者。日本語だから分からない、と思うな」

 訓練終了後、岡村少尉は大田大尉に怒鳴り上げられた。

 岡村少尉は首をすくめ、頭を下げる羽目になった。

「ガリポリ半島で、ANZAC軍団と我々海兵隊は共闘して、多大な戦果を挙げた。お互いに尊敬しあった戦友を馬鹿にする奴があるか」

 岡村少尉のぼやき声を叱りつける大田大尉の声は続いた。


「いいか、友が不安を覚えていたら、不安を無くそうと努めるのが、真の友たる者の務めだろうが。お前の態度はそれに反しておる。明日からも同じような態度を取ったら、鉄拳制裁を容赦なく加えるぞ。覚悟しておけ」

 大田大尉の叱声を受け、岡村少尉は態度を改めた。

 他にも日本語だから分かるまい、と似たような態度を取っていた日本戦車師団の面々は上官に怒鳴りあげられる羽目になった。


 そんなトラブルが生じ、短期間しかなかったが、日米戦車部隊の面々はANZAC軍団との共同訓練に勤しみ、何とか攻撃準備を整えることに成功した。

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