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第1章ー2

「我が軍に退却しろとおっしゃる」

 ヘイグ将軍の口調から、将軍が不機嫌なことを察した林提督はフォローに入った。

「我々が目指すのは勝利です。違いますかな」

「言うまでもありません」

「失礼ながら、サン=カンタン地区の防御態勢は貧弱極まりない。独軍の攻勢を防ぐために三重に引くべき塹壕陣地帯がきちんと完成していない箇所もあると仄聞していますが、違いますかな」

 林提督は直言した。

 ヘイグ将軍は渋い顔をした。

 全くの事実だったからだ。


 皮肉なことに1915年以降、英軍はソンム、カンブレー等と独軍に攻勢を取って来ていた。

 ヴェルダンのような独軍の嵐のような攻勢を英軍が防御したことは無かったのである。

 そのために防御態勢は林提督の目からすれば全くの不充分な代物になっていた。

 ちなみにフォッシュ将軍等、仏軍の将帥も英軍の防御態勢については林提督と同意見である。


「これを我々は逆用します。サン=カンタン地区をわざと独軍に突破させるのです」

 林提督は更に言葉をつないだ。

「英軍の第1線陣地には警戒兵力のみを置いて、後方程兵力の厚みを増すことにします。第3線陣地までは独軍の火砲支援は及ばない筈です。兵力の不足を火力の優位で圧倒します。それに、独軍の新戦術、浸透戦術の極意は先鋒を務める突撃部隊にあります。これには独軍の精鋭が集まっています。逆に言えば、これを潰すことは独軍にしてみれば、切り札が優先して潰されてしまうようなものです」


 基本と言えば、基本的なことだ、林提督は思いを巡らせた。

 敵軍の最精鋭を潰すことで、敵軍の士気を急降下させて崩壊させる。

 ワーテルローの戦いで仏軍が最終的に崩壊したのは仏親衛隊の突撃が失敗に終わった瞬間だった。

 ゲティスバーグの戦いでも「ピケットの突撃」が失敗に終わった瞬間に、南軍は撤退を決断せざるを得なくなった。

 この戦いでも、サン=カンタン地区に対する攻撃を逆用することで、独軍の精鋭を潰すのだ。

 独軍の精鋭が無駄に失われてしまえば、最早、英仏米日連合軍の攻撃を独軍は防ぐことはできない。


「林提督の言われる通りでは」

 フォッシュ将軍が林提督の援護に入った。

「独軍にわざと英軍の陣地を突破させて、深入りしたところを砲爆撃で叩き、更に英仏軍で予備を投入して独軍の精鋭を挟撃して殲滅しようとする。戦理にかなっている」

 フォッシュ将軍は内心で思った。

 ジョンブルどもの窮地を仏軍が助けることになる。

 これはこれで気分がいい物だ。


「分かりました。英軍をその方向で動かしましょう」

 ヘイグ将軍は渋い顔をしたまま、同意した。

 理屈では分かるが、退却と言うのはやはり世間受けが悪い。


「それから、我々から英政府に補充兵を送るように頼みましょうか。ヘイグ将軍。何でも補充兵を英国政府は送るのを渋っているとも仄聞しておりますが」

 林提督はヘイグ将軍の気を変えようと提案した。

 ヘイグ将軍が悪いのだが、余りにも西部戦線の英軍は攻撃で損害を出し過ぎていた。

 このために英軍60個師団が要補充状態にも関わらず、英政府はヘイグ将軍に補充兵を送るとそれを使って無駄な攻撃をするのではないか、と怖れる余り、補充兵をヘイグ将軍の下に送ってくれなかったのである。


「それは有り難い」

 これにはヘイグ将軍は素直に感謝した。

 仏日両軍司令官からの依頼とあれば、英政府は補充兵を送ってくれるだろう。


「それでは、それぞれ動きませんか」

 林提督の言葉にフォッシュ、ヘイグ両将軍は肯き、独軍を迎え撃つ基本的な方向は定まった。


 林提督は思った。

 やれやれ英仏両方共に司令部に攻撃精神があるのはいいが、兵の士気が共に落ちている。

 まず、独軍を迎撃して勝利を収めてから攻撃に移るべきだ。

 

 

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