幕間2-4
この韓国のシベリア出兵により、韓国内では軍部の買い入れにより米価が上がるという予測が広まり、韓国内の米価は5月以降徐々に上昇し始めた。
米は言うまでもなく主食であり、国民の生活の基盤を成す。
更に悪いことに、日本の欧州派兵等により、日本本土内では米の生産量が停滞しており、米については台湾からの移出や韓国からの輸入に日本はより依存するようになっていた。
そして、韓国政府が米価抑制のために、米の輸出量制限を検討しだしたことが、もうけるのなら今の内にと韓国からの米輸出を結果的に煽ってしまった。
そのため、米不足から韓国国内の米価の上昇が止まらず、6月になると米価は暴騰と言ってよいレベルに達してしまい、7月に入ってから、韓国国内では米価上昇反対を訴える住民の暴動が、都市の幾つかでとうとう起こる始末になっていた。
日本も対岸の火事として、韓国の暴動騒ぎを見ているわけには行かなかった。
何しろ韓国内で暴動が大規模化してしまい、米の輸出が韓国から完全停止となると日本の国民生活にも影響を及ぼす。
日本の寺内正毅内閣は、米の備蓄はあること、韓国からの米輸入が完全停止しても、仏印やタイからの米輸入は可能であること等の声明をだし、実際に三井や鈴木に命じて、仏印やタイからコメを実際に輸入させるという行動までさせた。
だが、それでも日本国内の不安は、折から少しずつ感染者を増やしだしたスペイン風邪の影響もあり、少しずつ広まっており、寺内内閣はいざと言う場合の軍隊投入を極秘裏に検討する段階に達していた。
日本がシベリア出兵に消極的で、米英仏の要請に応じられないのはそういった国内事情もあった。
「ともかくコルチャーク提督を事実上首班とする白軍勢力が事実上全シベリアを抑えているとはいえ、日本政府の分析では軍事力に頼っているだけで国民の信望がほとんどありません。こういった状況下では、むしろシベリアからの完全撤兵を考える段階だと日本政府としても、私としても考えます」
日本政府からそのようにできる限り訴えるように指示を受けている林忠崇元帥としては、自分もその判断に納得していることもあり、この場でも訴えた。
会議の場は重苦しい雰囲気になったが、事実は事実である。
会議の参加者たちも、それ以上は林元帥に求めなかった。
「中東方面では、我が英軍の攻勢が続いております。何れはトルコを崩壊させられるでしょう」
会議の雰囲気を変えるために英軍のヘイグ将軍が声を上げた。
「エルサレムは既に解放済みで、ダマスカス、アレッポも年内には解放して見せます。メソポタミア方面でも年内にはモスルまで進撃できると考えています」
「それはいい話ですな」
フォッシュ将軍もヘイグ将軍に合わせた。
「イタリア方面でも墺軍の攻勢をピアーヴェ河で撃退したと聞いております。我々が行く必要が無くなり、ほっとしました」
パーシング将軍が口を挟んだ。
西部戦線で大敗した独は墺に対し、イタリア戦線で攻勢を取ることを依頼していた。
弱体な伊軍を叩くことで、米軍を少しでもイタリア方面に増援として送らせることで引きつけ、少しでも時間を稼ぐ予定だったのである。
だが、既に戦力の限界に達していた墺軍の戦意は低下しており、6月に攻勢に出た墺軍はカポレットの大敗後に再編に努めていた伊軍の前に逆に大敗してしまった。
このために独の当初の希望とは全く逆の事態が起こってしまう。
イタリア方面はこれで伊軍に完全に任せられると英仏米日統合軍司令部が判断したことでイタリアにいた英仏軍6個師団が西部戦線に向かう事態が生じ、独軍参謀本部の苦悩をより深める有様になっていた。
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