幕間2-2
7月末、英仏米日統合軍は大反攻の準備を整えつつあった。
ヒンデンブルクラインを完全突破し、西部戦線の独軍を崩壊させるのが大目標である。
そして、ベルギーを解放し、ライン河を渡り、ベルリンへと最終的に進撃して、今年のクリスマスまでに本当にこの戦争を終わらせる。
英仏米日統合軍は、そう決意していた。
だが、世界の状況は決して楽観できるものではなかった。
英仏米日統合軍司令部に各国の将軍、提督が集っていた。
「ロシアの革命騒動はどういう現状にある」
最高司令官であるフォッシュ将軍の問いかけに、仏軍出身の情報士官は直立不動で答えた。
「ボルシェビキ共の革命軍が優勢な状況にあります。真に困った情勢です」
情報士官はさらに細かい状況説明を行い、各国の干渉状況を話した。
今年3月のブレスト=リトフスク条約締結後、英仏はソヴィエトに対する干渉を行い、ムルマンスク等に派兵していた。
だが、ロシア内戦はボルシェビキ、ソヴィエト側が全般的に優勢な状況にあり、欧州方面ではバルト三国やフィンランド、ポーランドの独立で英仏米日等は満足せざるを得ないのではないか、というのが、現状の大雑把な予測だった。
何しろ、ボルシェビキに対抗すべきいわゆる白軍にロシアの民衆の支持が集まらないのである。
民衆の支持が集まらない勢力を無理にテコ入れしても無意味である。
それに、世界大戦の決着がいよいよ着こうとしている大事な時期なのだ。
英仏はロシア内戦への干渉を欧州方面では諦めようとしていた。
だが、シベリア方面では微妙な情勢になっていた。
「林元帥、日本本国に英仏米日統合軍司令部からもチェコ軍団救援のための派兵要請があった旨、伝えていただけないだろうか」
情報士官の報告を受けた後、フォッシュ将軍は林忠崇元帥に依頼したが、林元帥は渋い顔をしながら、発言せざるを得なかった。
「私がすること自体はやぶさかではありません。しかし、先日も申しあげたように、日本に派兵の余力はありません」
シベリア方面においては、世界大戦の際にオーストリア=ハンガリー軍からの捕虜の内、チェコ、スロバキア人からロシア軍によって編制された通称チェコ軍団という部隊が存在していた。世界大戦末期においては、ロシア軍の一翼を担って、かつて所属していたオーストリア=ハンガリー軍と戦ってもいる。
この部隊は、ブレスト=リトフスク条約によって、武装解除の上、民間人としてウラジオストックに移動し、日米を経由して、再武装の上、西部戦線で独軍と戦うことになった。
だが、手違いが起こった。
何が起こったのか、最も有力とされている説ではチェコ軍団がウラジオストックへの移動に際し、内戦に巻き込まれた際に自衛するために携帯可能な火器を隠匿してウラジオストックに移動していたのが、ソヴィエト政府に発覚したために、条約違反だとして、ソヴィエト政府がチェコ軍団の移動を禁止したのが、チェコ軍団蜂起のきっかけとなったとされる。
だが、実際に起こったことについては諸説入り乱れているというのが実態である。
ソヴィエト政府としてはチェコ軍団の移動を認めるつもりは本音では全く無く、完全武装解除して内戦に巻き込まれたとして全員粛清する予定だったという学者までいるくらいである。
ともかく、チェコ軍団は西シベリアで武装蜂起した。
そして、これを救うために米国は派兵を決断し、日本にも共同派兵を呼びかけた。
だが、寺内内閣率いる日本政府は、米国政府の要請を拒否せざるを得なかった。
なぜなら、世界大戦に際し、欧州に派兵している日本にはその余裕がなかった。
それに本来、そういう任務に当てるべき海兵隊は総力を挙げて西部戦線にいたからである。
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