第4章ー9
大田実大尉らの所属する第1海兵連隊は、戦車連隊に改編されて、ホイペット中戦車108両を主力として装備することになった。
当然、大田大尉の指導の下、ホイペット中戦車の操縦、整備に栗林忠道中尉、一木清直少尉、岡村徳長少尉は悪戦苦闘する羽目になった。
それだけなら、まだしも、士官である以上、部下の指導もしなければならない。
そして、戦車を扱う以上、新しい戦車を使った戦術や作戦等についても学ばねばならない。
3人共、欧州に来て以来の最大の悪夢にうなされる羽目になった。
この時の訓練等の激しさについては、陸軍に復帰した後の最初の訓練の後で、栗林中尉が、こんな訓練、欧州での戦車小隊長としての訓練に比較したら、お茶の子だ、と自分の日記に書いたくらいであった。
「それにしても、戦車というのは壊れやすいのだな」
岡村少尉は、何日かすると、何とか戦車の操縦、整備について、見当が付くようにはなってきていた。
戦車小隊長として4両の戦車を岡村少尉は運用せねばならない。
だが、毎日、運用訓練をしていると、4両共問題なく運用ができて訓練終了という日が少ないという現実に岡村少尉は襲われていた。
当初は、自分の戦車に関する知識不足か、と自分を責めていたが、栗林中尉や一木少尉の小隊もほぼ同様らしいし、他の中隊でも大同小異らしい、というのが岡村少尉にも分かるようになってきた。
「ある程度は割り切らなければいけないということだな」
岡村少尉は、自分で自分を納得させた。
「ともかく戦車をきちんと操縦して、運用できるようにしろ。後の事はそれからだ」
一木少尉は内心を押し隠しつつ、部下の下士官、兵に指示した。
内心では、戦車の運用がこんなに手間暇かかるものだったとは、と冷や汗を大量にかいている。
時間がない、ということで岡村寧次大尉が発案したのが、歩兵と戦車の対抗演習を多用するという訓練方法だった。
実際の戦場では、戦車は歩兵に対して威圧感を与え、圧倒できるはずと一木少尉は思いたいが、海兵(歩兵)の面々は、容赦なく手榴弾等で戦車に挑んでくる。
最初は、戦車部隊の勝利と判定されることが多かったが、窪地等で身を伏せた後、そこから小銃弾を浴びせて、戦車の気を引き、その隙を衝いて手榴弾攻撃を行う等、海兵達は早速、工夫を凝らしだした。
そうなると戦車の搭乗員達にしてみれば、戦車からの視界の悪さ等、戦車の欠点が見えてくる。
戦車がこんなに運用しづらい代物だったとは、一木少尉は内心で冷や汗をかきながら、部下に対する教育を進めていた。
「航空支援か、いろいろと工夫が凝らされるものだな」
栗林中尉は、航空支援の運用法まで勉強することになったことに、自分が付いていけるのか、と不安を覚えながら、夜間勉強をしていた。
昼間は戦車の整備、運用をするだけで終わってしまう。
戦車を使った戦術、作戦について勉強、検討できる時間は夜しかなかった。
「何だか眠くなってきたと思えば、日が変わろうとしているな」
栗林中尉は独り言を言った。
時計の針は深夜、23時を回っており、午前0時に迫ろうとしている。
「明日も早い。もう寝よう」
栗林中尉はそう決めた。
泥のように寝てしまうだろう、明日の朝、きちんと起床できるだろうか、栗林中尉は不安を覚えた。
「皆、悪戦苦闘しているようだな」
大田大尉は、宿舎の灯りが少しずつ消えていくのを見ながら、独り言を言った。
大田大尉も、昼間は戦車の整備、運用に悪戦苦闘し、夜は夜で、戦車を用いた戦術、作戦研究を懸命に学んでいた。
「今、汗をかき、疲れるほど、実戦では楽になるものだ、精一杯、頑張ってくれ」
大田大尉は独り言を言って、寝床に入ることにした。
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