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第4章ー8

 完全自動車化された戦車師団編制の指示を林忠崇元帥から受けた後、第1海兵師団長の土方勇志少将にしても何もしていなかったわけではない。

 とりあえずということで、師団に所属する将兵全員に自動車運転、整備の訓練を徹底させていた。

 片端から手に入った自動車を将兵に対して運転させ、整備の訓練をさせる。

 マニュアルが英語、仏語なら、語学に堪能な者に翻訳させて、勉強させるという涙ぐましい努力までする羽目にはなったが、第1海兵師団の将兵はそれなりに練度を上げていた。

 だが、それ以外の訓練もある、第1海兵師団の将兵の多くが疲労したのも事実だった。


 4月初め、岡村徳長少尉は、陸軍から出向してきた一木清直少尉と深々と溜息を吐きながら、夕食を食べていた。

 その横では栗林忠道中尉も黙々と夕食を食べている。

「岡村、戦車の操縦については、何とかなると思うか?」

 一木少尉が、口を動かすのもつらい、という表情のまま岡村少尉に尋ねた。

「聞かないでください。本当は、私は海軍兵学校を卒業した後、航空に行きたかったんです。そりゃ、海兵隊に大量の死傷者が出ていて、補充士官が必要で、陸軍にも応援を依頼しているのは事実ですから、海兵隊に行かされたのは仕方ないと思ってはいますが。何とか自動車の運転、整備は自信が付きましたが、ここで戦車の操縦まで熟練してしまったら、何だか自分が別世界にどんどん進みそうで」

 岡村少尉は、心の堰が思わず切れた。

「だよな。何だか違う別の世界にいる気がするな」

 栗林中尉が口を挟んだ。

「わしは騎兵科なのだが、馬がいない自動車ばかりの部隊に配属されるとは思わなかった」

「栗林中尉もそう思われますか」

 同じ陸軍出身と言うことで親近感を覚えていた一木少尉は、栗林中尉の言葉に強く肯いた。

「それくらいにしておけ、もっと疲れる話を教えてやろう」

 3人の傍に別の人の影が現れて言った。

 3人は、その人物の顔を見て驚いて、声を上げた。

「大田実大尉」


「直属の鬼上官がいきなり現れたからと言って、そこまで驚くことは無かろう」

 大田大尉は少し憮然とした顔をした。

「それは、そうなのですが」

 栗林中尉が3人の中での最上位者として答えたが、陸軍出身者の間でも大田大尉は有名な存在だった。


 3年前のガリポリ半島上陸作戦を皮切りに海兵隊は奮戦しているが、大田大尉はガリポリでも、ヴェルダンでも、チロルでも最前線で戦い、生き抜いた稀有な存在だった。

 これまでの功績を激賞され、この4月を期して、終に大尉に特進を認められて、第1海兵師団に中隊長として転属してきた。

 英仏の将兵まで歌っている日本海兵隊の歌の一節、ガリポリの浜辺からアルプスの頂までが、我がサムライの戦場ぞ、を実地に大田大尉は経験している。

 当初から海兵隊に配属された海軍兵学校第41期生の中では唯一の生き残りでもあった。

 それについては、運が良かっただけ、と大田大尉は言うが、あれだけの激戦を経験してきて生き抜いてきたとは、と陸軍の若手士官も称賛を惜しまない。


 新しく大田大尉が中隊長として転属してきてすぐ、栗林中尉ら3人は大田大尉の指導に音を上げる羽目になった。

 間違った指導をされるわけではない、しかし、戦場での実地経験が無かった3人にしてみれば、大田大尉の戦場経験に基づく厳しい指導に目を白黒させる羽目になったのだった。

 それ以来、3人の間で大田大尉に対する苦手意識は刷り込まれている。


「新しい教育指導方針、部隊編制、作戦方針が先程、正式に決まった。我々の海兵中隊は戦車中隊に改編される」

 大田大尉の言葉に、3人は顔をあわせて絶句した。

 本当に戦車に我々は乗ることになるのか、実際になるとは思わなかった。

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