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第4章ー7

 秋山大将からの示唆を受け、梅津美治郎大尉は更に突っ込んだ議論を他の面々とした。

 この頃から、海兵隊の若手士官達も加わり、規模が拡大したので、3つの班に担当を分けて、自分が総括することにした。

 この師団を編制する際の問題点等を検討し、実際の編制を検討する編制班、また、教育面の問題点等を検討し、実際の人員の教育を検討する教育班、作戦面の問題点を検討して、実際の作戦を検討する作戦班の3つである。

 編制班は永田鉄山大尉が、教育班は岡村寧次大尉が、作戦班は小畑敏四郎大尉にそれぞれ統括させた。

 陸士同期でもある3人は意気揚々となった。


「永田が陸相で、小畑が参謀総長と言ったところだな。わしが教育総監か。将来、そうなりたいな」

 岡村大尉が言うと他の2人も肯いた。

「しかし、忙しいぞ。不眠不休で急がんと8月の実戦投入に間に合わん」

 永田大尉は冷静だった。

「確かにな。英仏の戦車部隊の資料を至急取り寄せたり、独自に検討したり、時間がいくらあっても足りそうにないな」

 小畑大尉もいい、3人は他の班の面々の先頭に立ってそれぞれ奮闘した。


 4月初め、ようやくこれらの成果がまとまった。

「第1戦車連隊はルノーFT17戦車108両で編制します。第2戦車連隊はホイペット戦車108両で編制します。自動車化海兵連隊がこれを支援し、砲兵連隊も全て自動車牽引が可能な砲を装備させます。これ以外の補給部隊等も完全自動車化の目途が立ちました」

 永田大尉は誇らしげに、秋山好古大将や土方勇志少将らに報告した。

「戦力の中核となる戦車連隊は3個大隊編制で、全部で6個中隊編制です。1個中隊は4個小隊から成り、各小隊に戦車4両で、別に中隊長直轄に2両で、全部で18両になります。また、連隊ごとに戦車整備の部隊を大量に随伴させることで戦力の維持を図ります」

 永田大尉は言葉をつないで、説明を終えた。


「作戦面で鍵になるのは、空陸の一体性です。航空部隊との連携を確保せねばなりません。航空機には無線機を搭載し、地上部隊にも無線通信機器を充実させる等して、通信により連携した行動を行い、戦果拡大を図ります。また、速度を重視することにより、敵軍に予備部隊投入の暇を与えないことも重要です」

 小畑大尉は作戦研究を要約して説明した。

 これには、さすがに異論が土方少将から出た。

「確かに小畑大尉の言うのは理想だ。だが、無線通信を扱うことが出来る兵を今から養成できるのか。それに適当な無線通信機器が8月初めまでに整うのか」

「確かにそうですが」

 実は小畑大尉は、金は英仏というお大尽に任せろ、と梅津大尉が煽ったので、つい無尽蔵に金は使えるという感じで無線通信機器を縦横無尽に使う計画を立ててしまっていたのだった。

「できる範囲で通信面は強化せねばなるまい。基本方針は間違っていない」

 秋山大将が取り成し、とりあえずその方針で行うことになった。


「士官、下士官、兵の教育が一番大変です。部隊は新しい発想で編制される、作戦構想も新時代と言っていい代物です。戦車等の装備面の教育も必要です。一番大変なのは教育でしょう」

 この言葉を皮切りに岡村大尉は、疲労を積み重ね、3人の中で一番悪い顔色で説明する羽目になった。

 既に説明を終えていた永田、小畑大尉らも岡村大尉の説明を聞いて、深刻な表情になった。

「これまでも自動車運転教育の強化等、やれることはやってきたが」

 秋山大将や土方少将も、岡村大尉の説明を聞いて深刻な顔をして呟く羽目になった。

 実際の戦場で戦果を挙げられるかは教育に掛かっている、その場にいる全員が確信した。


「よし、急いで準備に掛かるぞ」

 秋山大将は全ての報告を聞き終えると決断を下した。 

 史実でこの陸士16期生の友情が壊れず、永田鉄山が陸相に、小畑敏四郎が参謀総長に、岡村寧次が教育総監と陸軍三顕職を占めたら、陸軍がどうなっていたか、と私は夢想してしまいます。

 史実では俊秀雲の如し、と謳われた陸士16期生は、小畑と永田が対立した末に、永田は暗殺、小畑は陸軍から追放とがたがたになり、岡村のみ陸軍に遺されたわけで。

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