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第4章ー3

「いい経験ですか?」

 酒井鎬次大尉が口を挟んだ。

 このメンバーの中では若手に入るので口を慎んでいる。

「そうだ。全く他人の金で結果を気にせずに博打が打てるようなものだぞ。しかも、尉官クラスの我々がだ。こんな千載一遇の機会があるか」

 梅津美治郎大尉が言うと、愚痴をこぼしていた小畑敏四郎大尉を含めて、皆の目の色が変わった。

「確かにその通りだ。ここで、戦車師団編制の経験を積んで、その長所短所を把握し、更に戦車の実地運用の経験を積めば、今後の日本陸軍に大いに役立つ」

 永田鉄山大尉が言った。

「その観点は無かったが、そのとおりだ。これは、我々の腕を振るういい機会だ」

 岡村寧次大尉も合わせた。

 小畑大尉を含め、その場にいる全員が肯き合っている。


「話が盛り上がり、決意も固まったようだな」

 いつの間にか、部屋の外に来ていて話を聞いていたのだろう、その機会を見計らったように秋山好古大将が土方勇志少将を従えてその場に表れた。

「秋山大将」

 梅津大尉が、慌てて敬礼する。

 他の面々も慌てて合わせて敬礼した。


「梅津大尉が言うとおり、これはお前らにとって千載一遇の機会だ。存分に腕を振るってみろ」

 秋山大将は、皆に発破を掛けた。

「何しろ、我が陸軍の金は一円も掛からんのだからな。全て英仏や海軍が持ってくれる。こんな自分の金を気にしないでいいことは二度とないと思え。何しろ、我が陸軍は貧乏だからな」

 秋山大将は言葉をつなげた。


「我が陸軍が貧乏陸軍ですか」

 小畑大尉が不服気に行ったが、秋山大将は小畑大尉を見据えて言った。

「欧州に来て、英仏両軍の砲弾使用量をきちんと調べたか。我が日本陸軍にそれだけの砲弾を買って、使用する力があるか。そんな力はないだろう。それは我が国が貧乏だからだ。それを肝に命じろ」

 その場にいた全員が下を向いて黙考してしまった。


 この戦争で英仏それぞれが使用した砲弾はそれぞれ2億発を超えている。

 この戦争が終わるまでに合わせて6億発に達するだろう。

 4年余りに及んだ戦争がそれだけの砲弾を要求したのだが、正直に言って、その1割、2000万発ですらその期間に今の日本には砲弾の製造が出来はしなかった。

 海兵隊が英仏両軍と肩を並べて戦い、精強の名をほしいままにしているのは、実際には英仏から兵器から砲弾から、いろいろと融通を受けているからであり、もし、英仏からの兵器等の供給がストップされれば、その瞬間に海兵隊が張子の虎に陥るのは自明のことだった。


「だが、今回、英仏米の好意により、多量の自動車の提供を受け、更に戦車200両余りを入手できる目途が立った。林忠崇元帥に相談したところ、わし達の思いのままの戦車師団を設計してみろ、と言われたのだ。こんな機会を逃がす貴様らではあるまい。思う存分、討議して、理想の師団を考案し、実現して見せろ。我が陸軍の優秀な若手たちなら、きっとできるとわしは信じている」

 秋山大将の続けての言葉に、その場にいた若手士官たちは皆、顔を上げた。


 うまい言葉だ、ここまで言われて発奮しないようでは、日本陸軍士官ではない、よろしいでしょう、我が智謀を傾けてでも、見事と英仏両陸軍士官の面々を唸らせるだけの師団を編制し、実戦で戦果を挙げさせましょう、梅津はそう思った。

 周囲も梅津と同様に思ったのか、そのような表情を浮かべている。


「そして、その師団と共に我々はこの戦争を勝利で終えるためにベルリンへと進もうではないか。そうベルリンへ」

 秋山大将の言葉に、その場にいた若手士官は唱和して答えた。

「ベルリンへ進みましょう。将軍。ドイツ陸軍の弟子として、出藍の誉れを示して見せましょう」

 中には涙をこぼしながら言う者までいた。

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