第4章ー1 戦車師団
第4章の始まりです。
1918年3月初め、土方勇志少将は南仏の駐屯地で頭を抱え込んでいた。
全く何で海兵隊が戦車を中核とする師団を編制しなければならないのだ。
しかも、自分がその師団である第1海兵師団長を務めねばならない、という性質の悪い冗談としか思えない有様だった。
欧州派遣軍総司令官である林忠崇元帥は、何でもない事のように自分に命じて、わしは英仏日統合軍司令部の総参謀長の仕事で忙しいから全部お前に任せる、と丸投げしてしまった。
これは、自分に対する信頼を喜ぶべきなのだろうか、嘆くべきなのだろうか、とまで土方少将は思いつめる羽目になった。
だが、是非もない、任された以上はやるしかない、土方少将は終に腹をくくった。
「そもそも戦車はこれまでの兵科でいえば何に当たるのだ?」
腹をくくった土方少将が、まず第一に考えたのは、そのことだった。
これまでの兵科で何に当たるのか、それを基に運用法を考えるべきではないのか。
幸いなことに、秋山好古大将を始めとする日本陸軍の士官達も多数、日本から来ている。
まずは戦車の運用実績のある英仏軍の士官の意見を聞き、次に、日本陸軍の士官の意見も聞いてみよう。
「戦車は、そもそも工兵の代わりです」
英軍から招いた戦車運用の士官は、戦車の運用法を学ぼうとする土方少将らにそう説明した。
「要約すれば歩兵の攻撃を先導する戦闘工兵なのです」
ふむ、土方少将らは英軍士官の説明を聞きながら、英軍の運用法を理解しようとした。
つまり、戦車は塹壕等戦場の障害物を除去し、敵陣地に対する歩兵の攻撃を成功させるためのものなのだ。
「戦車は、そもそも砲兵の代わりです」
仏軍から招いた戦車運用の士官は、戦車の運用法を学ぼうとする土方少将らにそう説明した。
「要約すれば自走して前進する砲兵なのです」
ふむ、土方少将らは仏軍士官の説明を聞きながら、仏軍の運用法を理解しようとした。
つまり、戦車は敵陣地に対する事前砲撃の効果がない場合に、更なる砲撃を加え、敵陣地に対する歩兵の攻撃を成功させるためのものなのだ。
「いや、参ったな。英仏両軍の戦車運用法の基本がこうまで違っていたとは」
土方少将は、戦車に関する英仏両軍からの説明を受けた後にぼやくように言った。
土方少将以外の第1海兵師団司令部の面々も疲れた表情で、土方少将の言葉に肯いている。
「これで、日本陸軍の発想が違っていたら笑えるどころの話ではないな」
「まさか」
土方少将の軽口に幕僚の面々は笑い転げた。
「戦車はそもそも騎兵の代わりに決まっておる」
秋山好古大将は、戦車に関する説明を始めて早々に、土方少将らにそう断言した。
土方少将ら第1海兵師団司令部の面々は、いきなり毒気を抜かれてしまった。
「いいか、敵軍を突破して、敵司令部を急襲する。戦車はそれを可能とする兵科だ。これまでの歴史から言えば、騎兵がその役割を担ってきた。今後は、騎兵の代わりに戦車がそれを担うのだ」
秋山大将は、土方少将らにそう力説した後、縦横無尽に過去の戦訓を上げた。
古代ギリシャのガウガメラの戦い、中世十字軍のアルスーフの戦い、17世紀のブライテンフェルトの戦い等と秋山大将は過去に騎兵突撃が多大な戦果を挙げ、戦場の決着をつけた例を示した後で言った。
「今後は、その騎兵の代わりを戦車が務めることが可能であると、わしは信じるのだ。海兵師団の諸君は、わしの信念を実現してくれないか」
土方少将らは、秋山大将の余りの言葉に顔を見合わせながら、お互いに内心で呟き合った。
ああ、この人は生まれた時代が悪かった。
せめて50年早く産まれたら、文句なしに騎兵の名将になれたのに。
今はそんな時代ではないのにこの人は今も夢を追っている。
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