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第3章ー15

 たびたび場面が変わってすみません。

 久しぶりの主人公登場です。

 1918年7月終わり、新兵の訓練はほぼ完結し、日本海兵隊は再び最前線に赴く準備を完全に整えつつあった。

 本当なら6月には第1海兵師団以外の師団は最前線に赴けると判断されていたが、戦車師団への改編中の第1海兵師団の合流を待ち、日本海兵隊は総力を挙げて、1918年8月1日を期して行われる連合軍の大攻勢に参加することになった。

 言うまでもなく、その海兵隊の支援を日本陸海軍航空隊は総力を挙げて行うことになる。


「信じられるか、我が日本で最前線に投入可能な機数が陸海軍併せて約600機だぞ。600機」

 石川信吾中尉は目を丸くしながら、土方歳一少尉に力説した。

「私も信じられませんでした。ですが、鈴木貫太郎師団長も明言されましたし、間違いない数字なのでしょうね」

 土方少尉も信じかねるという表情を浮かべながら、石川中尉に肯いた。


「更に言うと、陸海軍が共通の機材を使っているので、部品の融通とかも順調に行えているということだ。ここ欧州の地では、そうそう簡単には部品は手に入らないからな」

「本当ですよね」

 石川中尉と土方少尉の会話は更に進んだ。

 これは、ある意味で当然だった、何しろ結果的とはいえ、海兵隊の地上支援と制空という任務を陸海軍航空隊が共に行わねばならなくなったのだ、共通の同じ機材を使うことが合理的だった。


「それでだ」

 石川中尉は意味深な顔を浮かべ、土方少尉にささやいた。

「ここまで日本の航空戦力が拡大した以上、日本にも空軍を創設しようという動きが本格化しつつあるらしいが、土方は何か聞いていないか」

「私は何も聞いていませんが」

 土方少尉は、正直に答えた。

 実際、土方少尉の実父の土方勇志少将は、こういった軍事機密について厳格な考えの持ち主で、同じ海兵隊士官である息子の土方少尉に、空軍創設の動きについては何も教えていなかった。


「本当か」

 石川中尉は土方少尉を探るような眼をしたが、そこに北白川宮大尉が通りかかり、声を掛けた。

「何を話しておる」


「いえ、世間話を少し」

 まさか、上官の北白川宮大尉が急に現れると思っていなかった石川中尉は慌ててそう言ったが、却ってそれは北白川宮大尉の疑惑を深めた。

「正直に話せない事か」

 北白川宮大尉の口調が詰問に近いものになった。


 土方少尉はふと思った。

 北白川宮大尉なら皇族だし、空軍創設について何か知っているのではないか。

「実は日本にも空軍が将来的にはできるのではないか、と2人で話しておりました」

 土方少尉は、そう言った。

 全くの嘘ではない、だが、本当でもない話だ。

 これくらいなら、北白川宮大尉に話す内容として許されるだろう。

 そして、あわよくば北白川宮大尉から真実を教えてもらえるかも。

 石川中尉も自分に合わせることにしたのか、横で肯いている。


「空軍創設の話か」

 やはり、北白川宮大尉は、自分達よりもその話を知っていたらしく、訳知り顔になった。

「ここ欧州で陸海軍航空隊が肩を並べて戦っているのを見てどう思う。しかも、両方合わせても数十機とかならまだしも、予備機とか練習機とかも入れれば一千機近い機体を我々は有している。空軍を作ってもいいと思わないか」

「そうですね」

 石川中尉も土方少尉も肯いた。


「いずれは面白い情報が届くと言っておこう。ただ、その前にこの戦争が終わらせねばな」

 北白川宮大尉は悪い顔をした後で続けた。

「何しろ、空軍を作るとなると法律を作る必要があるからな。幾ら急いでも来年の話になる。それまでにはこの戦争を終わらせないとな」

 2人は、そう言われれば、といった顔をして、お互いの顔を見合わせた。

「何としてもこの戦争を終わらせるぞ」

 北白川宮大尉の言葉に、2人は肯いた。

 

 第3章の終わりです。

 次話から第4章になります。

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