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第3章ー13

 時間を少し巻き戻す。


 林忠崇元帥は、山県有朋元帥に引き続き、立憲国民党党首の犬養毅に対する直筆の書簡を認めた後、少し物思いにふけった。

 英が空軍を作り、他の国も空軍創設の動きがある、日本も山本元首相らの動きによって、終に空軍が創設されようとしているのか。

 わしが、幕府に仕える大名だった頃に、こんな時代が来ると予想できただろうか。

 空を飛ぶ機械が戦場で当たり前のように駆け巡り、それによって戦争が左右される時代が到来しつつあるのだ。


 空軍を創設するなら、確かに今が最善だろう。

 今の日本は戦争の真っ最中だから、これを機会に大幅な組織を改編するというのは、ある意味で混乱をもたらし、諸刃の剣になりかねないが、今なら、陸軍航空隊と海軍航空隊はほぼ共通の航空機材を使っている状態だし、共に欧州に派遣されて共闘することで、陸軍航空隊と海軍航空隊は統合されても支障はないという意見が、ここ欧州では現場からも実際に出ている。

 この時を逃せば、頭が冷えた海軍の将官の多くが自前の航空隊を手放そうとはするまい。

 将来のことはわからない、当たり前のことだが、その不安から何もかも維持しようとするのは無理だ。


 幸いなことに、我が日本の陸海軍の仮想敵国は、ロシアではなかった、ソヴィエトで統一されている。

 ソヴィエト海軍は、額面上は今でも世界有数の軍艦を保有し、有力な海軍ではあるが、革命騒動のために海軍の軍人や技術者が大量にソヴィエトから亡命しており、実力はかなり低下しているとみていい。

 そうなると、我が国の海軍を急速に強化する必要はないし、海軍航空隊を何としても維持する必要はないだろう。

 いざとなれば、空軍でも艦隊に対する偵察任務や対艦攻撃任務はこなせない訳ではないからだ。


 それにしても、わしへの手紙が、空軍の任務から説き起こされているとはな。

 確かに必要なことだが、山本権兵衛元首相も斎藤実元海相も、わしに対して丁寧に過ぎるな。

 欧州で実戦経験を積んだわしが分かっていないと思ったのだろうか。

 林元帥は内心で失笑した。


 確かに、我が国の現状に鑑みる限り、艦隊決戦を行う相手はソヴィエト海軍だけだ。

 日露戦争の奉天会戦で大敗を喫したロシアは陸軍の改革にいそしみ、海軍整備を怠った。

 更に、バルチック艦隊がそのまま太平洋艦隊になったので、新しくバルト海艦隊をロシアは整備しなければならなくなり、太平洋艦隊の改善はなおざりにされてしまった。

 日露戦争後に太平洋艦隊に配備されたロシアの戦艦は0だ。

 一方、日本は着々と戦艦等の整備を進めた。

 日露戦争時の旅順艦隊とウラジオ艦隊の恐怖を、今のソヴィエト海軍の太平洋艦隊に対して日本が覚える要素は皆無だった。

 そして、中華民国の海軍は、かつての日清戦争の頃の清国海軍が遠い昔のように落魄してしまい、我が日本海軍の戦力の前では蟷螂の斧に過ぎない。

 今や、日本海軍は、海兵隊を先兵にしてどこにでも中国本土に上陸作戦を展開できる、といっても過言ではない。


 だが、陸ではそうではない。

 同盟国の大韓王国防衛に、満蒙利権、そして、新たに手に入る筈の山東省の独利権等、陸の上で日本が護るべき権益は増える一方だった。

 日本の航空戦力にとって、地上支援任務はますます重要になるだろう。

 そして、それに伴う制空任務も。

 こうしたことから考えると、海兵隊支援のために海軍航空隊をさらに整備するくらいなら、空軍によって陸軍も海兵隊も支援する方がはるかに合理的だった。

 そして、実際にここ欧州では陸軍航空隊が海兵隊を色々な面で支援している。


「全く空軍がわしの生きている間に、日本でもできるかもとはな。長生きはするものだ」

 林元帥は感慨にふけった。


 

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