第3章ー9
林忠崇元帥は続けて、欧州に派遣されている海軍本体の提督の面々の意見聴取も行った。
八代六郎欧州派遣艦隊司令長官や山下源太郎海軍航空隊司令長官も、口々に海軍本体の艦隊戦力確保の観点から、陸軍の隷下にある半独立の空軍設立に同意した。
「確かに、陸上機から成る基地航空隊は、対潜任務に際して余り役に立ちません。航続時間等から考えると費用対効果は遥かに飛行船の方が対潜任務に際しては効率的です」
八代欧州派遣艦隊司令長官は、そこまで断言した。
実際問題として、未確認戦果はそれなりにあったものの、戦後に独の記録と照合した結果、航空攻撃により撃沈できた独潜水艦は大戦中に連合国すべてをかき集めても僅か1隻という史実からすれば、八代欧州派遣艦隊司令長官のこの時の基地航空隊に対する酷評もやむを得ないところである。
そして、日本海軍では超ド級戦艦の建造が費用面から滞っているという現実もそれを後押ししていた。
海軍本体の多数意見としては、速やかに戦艦山城の建造を再開し、(未だに仮称段階ではあるが)伊勢級戦艦2隻の建造に取り掛かりたいというのが本音だった。
そう言ったことから考えると、海軍が保有する陸上機の空軍への移管は止むを得ない代物だった。
林元帥は海軍内部の意見の取りまとめが成ったと判断して、欧州派遣軍総参謀長の秋山好古大将等の陸軍の将官の面々を呼び、説得にかかることにした。
まずは、秋山大将だった。
「実は、日本本国から電報で話が有った。海軍が保有する陸上機から成る基地航空隊と、陸軍航空隊を統合して、陸軍の隷下に半独立の空軍を設置してはどうか、という話が出ているそうなのだ。忌憚のない所を聞きたい」
林元帥は、秋山大将に打診した。
「そういう話を持ち出すということは、林元帥はその話に賛成なのですな」
秋山大将はすぐに答えた。
「ほう、何でそう考えたのだ」
林元帥の反問に、秋山大将は笑って答えた。
「林元帥の政治力からすれば、海軍内部でその話を潰すのは簡単とは言いませんが、それなりに可能なはずです。それがわざわざ私にまで話を持ちかける。要するに、陸軍の我々にも賛成してもらって、本国の空軍設立派を後押ししたいのでしょう」
「かなわんな。見抜かれていたか」
これは本音でとことん攻めるか、林元帥は頭を回転させた。
「正直に言う。我が国の仮想敵国はどこだ」
「まずは、ソヴィエト、次に中華民国ですな」
秋山大将は言った。
「それに対処するのに必要な航空戦力はどのようなものだ」
「制空任務に当たる戦闘機等の航空戦力が第一、第二に地上部隊支援に当たる爆撃機等の航空戦力ですな。海上戦力の支援に当たる航空戦力の必要性はそれ以下です」
林元帥と秋山大将は問答した。
「我が国は何もかも買える程、裕福な国かな」
「そんなことはありません。大国の仲間入りはしていますが、国力は正直に言って、英米には及びもつきません」
「そうなると必要なものに限って購入し、できる限り有効活用するしかないではないか」
林元帥と秋山大将は更に話を進めた。
先に手を挙げたのは、秋山大将だった。
「ですが、海軍の陸上機から成る基地航空隊を単に陸軍に移管したのでは、海軍内の面子が保てない。それに、新しくできた航空隊は、陸軍ばかり優先して、海軍や海兵隊を支援してくれないのではないか、と不安があると海軍は言いたいのでしょう」
「そういうことだな」
林元帥は本音で話した。
「分かりました。空軍創設の意見具申をしましょう。林元帥からは山県有朋元帥への取り成しを頼みます」
秋山大将が遂に言い、それを皮切りに陸軍の将官も全員が同意した。
林元帥はそれを受けて、山県元帥らに直筆の手紙を認めることにした。
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