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第3章ー8

 少し時を巻き戻す。


 山本権兵衛元首相と斎藤実元海相が手を組んで日本空軍創設に動き出した直後、欧州派遣軍総司令官である林忠崇元帥の下に、その2人から空軍創設についての長文の電文が届いた。

 林元帥はその電文を読んだ後、一人で考え込んだ。


「2人のいうことは正しい。確かに大日本帝国憲法上の疑義を避けるために、速やかに陸軍隷下に半独立の空軍を設置して、陸上機を統合運用する。日本の国力からもその方が効率的だし、海兵隊の組織にとってもその方が妥当だろう。とりあえず、海兵隊の提督クラスの意見を統一し、次に海軍本体の提督クラスの意見を取りまとめ、最後に陸軍の将官クラスの意見を傾聴して、欧州派遣軍総司令部の総意であるとして、日本本国に意見を申し述べるか」

 林元帥は熟考した末に、そう決断した。


「空軍創設ですか、それはいい考えだ」

 欧州に派遣されている海兵隊の提督の面々、土方勇志や黒井悌次郎らは異口同音に一人を除いて、林元帥から空軍創設の話を聞いてすぐに空軍創設に賛成した。

 欧州に派遣されて約3年、海兵隊の戦闘に際して地上支援が必要なのは、身に染みている。

 そして、海軍航空隊が世界大戦後は海軍本体支援に特化し、海兵隊支援を行わないという可能性が高いことも、彼らはわきまえていた。

 だが、一人だけは首を傾げた。


「確かに、林元帥の言う理由はもっともです。ですが、もっと卑俗な理由があると愚考しますがいかがでしょうか」

 鈴木貫太郎第3海兵師団長は、林元帥に直言した。

「さすがは、元海軍次官」

 林元帥は破顔一笑した。


「鈴木少将、正直に言う。海軍には金がないのだ」

 林元帥が言うと、鈴木少将も笑って言った。

「そういう理由でしたら仕方ありません。空軍創設に同意します。それにしても、何で金がないのです」

「海兵隊と言う超道楽息子のせいだな。欧州に行きたいと海兵隊が駄々をこねたからだ」

 林元帥は冗談で言った。

「ほう、その超道楽息子の象徴が目の前にいますな」

「元帥海軍大将たるわしをそう言うとは、お前も偉くなったな」

「いや、一度、元帥の悪口を面前で言ってみたかったのですが、まさか、できるとは思いませんでした」

 林元帥と鈴木少将は笑いながら言い交わした。


「ともかくな、海軍に必要な航空関係のモノがどれだけあると思う。水上機に艦上機、飛行艇に加え、対潜用に飛行船に気球だ。それに加えて、陸上機まで開発整備できると思うか。飛行船等、要らないのでは、とわしは思うが、欧州派遣艦隊司令部はぜひとも買いたい、と海軍省や軍令部に掛け合う有様だ」

 笑いを収めた林元帥はしみじみと言った。

「確かにそうですな。航空関係と言うか、兵器の開発を諦めて、外国から買うという手段もありますが、やはり、自国に必要な兵器開発は自国でしないと、何れは外国に首根っこを押さえられることになります」

 同じく笑いを収めた鈴木少将も林元帥に同意した。


「そして、我が日本の仮想敵国たるソヴィエトや中国を考えると、我が国に必要な航空戦力は第一に制空任務、第二に地上支援任務だ。艦隊支援任務はその後に来る任務に過ぎない」

 林元帥は言葉をつないだ。

「確かにその通りです。日英同盟があり、米国とも満鉄共同経営等を通じて、準同盟関係と言っても過言ではない関係にある我が日本の海軍が陸上機を何としても保有しないといけない理由はありません」

 鈴木少将も同意した。


「英国なり、米国なりを仮想敵国とする軍備を我が日本が必要としない以上、陸上機によって編制される海軍基地航空隊は、陸軍の隷下にある半独立の空軍に移管して整備を進めるべきと考えるのだ。鈴木、同意してくれないか」

 林元帥の言葉に、鈴木少将は肯いた。

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