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第3章ー7

 それと相前後して、陸軍でも山県有朋元帥、奥保鞏元帥、伏見宮貞愛元帥、川村景明元帥、寺内正毅首相、上原勇作参謀総長、大島健一陸相と陸軍全ての元帥と現役大臣が集まった会合が開かれていた。

 主に発言したのは、寺内首相と上原参謀総長と山県元帥と大島陸相の4人で、他の3人は基本的に沈黙していた。


「陸軍航空隊と海軍航空隊を統合し、陸軍の隷下に半独立の空軍を設置するという提案が、加藤友三郎海相から提起されました。島村速雄軍令部長も同意しているとのことです。陸軍はどう対応すべきでしょうか」

 大島陸相が口火を切った。

「参謀本部としては、半独立の空軍を設置する必要はないと考えておる。海軍と海兵隊の関係を見れば分かるように、半独立の部隊を作ると統制が困難になる。これまで海軍は海兵隊の統制に散々手を焼いてきた。そのことから考えると、空軍を設置することは無い」

 上原参謀総長は消極的な意見を上げた。

「しかしな、上原、空軍を設置するならば、海軍は陸上機を全てその空軍に移管してもよい、しかも操縦士等も空軍に移管すると言っておるのだ。これは極めて魅力的な話ではないか。第一、空軍の任務を考えると陸軍の隷下におくのは合理的だ」

 寺内首相は言った。

「確かにその通りです。限られた予算の下で、海軍の保有する陸上機全てを移管してもらえるというのは魅力的です、その分、維持費がかかると言われそうですが、購入費用を考えると、陸軍の戦備を一新する絶好の機会です」

 大島陸相も寺内陸相の尻馬に乗ってきた。

「何しろ少なく見積もっても海軍機300機余りですぞ、予備機も入れれば、多分500機余りが手に入ります。垂涎の代物ではありませんか」

「ですが」

 上原参謀総長は、顔をしかめた。


 上原参謀総長としては、あくまでも空軍を設立したくは無かった。

 下手に空軍を創設しては、海兵隊を海軍が扱い兼ねているように、空軍を陸軍が扱い兼ねるという事態が起こりかねないと懸念していた。

 それよりも、単純に海軍航空隊を陸軍に編入して、陸軍航空隊として完全に再編制した方が戦力になるのではと思料していた。


 山県元帥が口を挟んだ。

「上原参謀総長としては、どう考えるのか。明確に述べてくれないか」

「海軍航空隊の陸上機は全て陸軍に寄越せ、陸軍航空隊として再編制させてもらう、以上です」

 上原参謀総長は言った。


「それは無理でしょう。幾らなんでも欲深すぎませんか」

 大島陸相が口を挟んだ。

 他の会議の参加者も肯いている。


「元老の山本は」

 と山県元帥は切り出したが、元老というところを嫌々口にしているのが他の者には丸わかりだった。

 他の者は、皆、山県元帥は山本元首相が嫌いなのだと思った。

「半独立の空軍を陸軍が建設するのなら、海軍航空隊の陸上機を譲ると言ってきた。このことは林忠崇元帥も同意しているとのことだ。実際に、林元帥からの直筆の書面もわしのところに届いている」

 山県元帥は、内心で思った。

 全く、山本め、林がわしのお気に入りなのを逆用しおって、ここまでお膳立てされた以上、のってやるしかあるまい。

「裏返せば、海軍も海兵隊も空軍を建設してくれ、ということだ」

「それは空軍建設を呑むべきでは」

 寺内首相が山県元帥に迎合し、他の者も肯きだした。

 上原参謀総長は孤立無援なのを悟った。


「分かりました。空軍建設に同意しましょう。但し、議会への法案提出に陸軍は協力をとことん惜しませてもらいます。海軍に丸投げしましょう」

 上原参謀総長は最後に片意地を張った。

「そのあたりは、山本に任せてしまえ、わしも指を動かす気にはなれん」

 山県元帥も言った。


 陸軍の総意が、空軍建設の方向にほぼこの瞬間に固まった。 

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