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第3章ー5

 こうして、山本権兵衛元首相らは空軍創設に動き出したが、そう簡単に物事が進むものではなかった。

 予想通り、空軍創設には消極的な意見が海軍に続出したのだ。


 海軍の小笠原長生少将らが、空軍創設には反対した。

 主な反対の論点は5点あった。


 第一に、艦隊に不可欠な航空兵力を、空軍を経由して得なければならないという指揮系統の問題である。

 艦隊司令部から海軍上層部へ、更に空軍上層部から現地の航空隊へと依頼していかねばならないのではないか。

 このような指揮系統では、実戦の際に役立たないということである。


 第二に、本当に空軍が海軍に協力できるように、海上の戦闘訓練等の教育をしてくれるのか、という疑問である。

 最初は海上の戦闘訓練等の教育も併せて指導していても、いろいろ小理屈をこねてしなくなるのではないか等と不安を主張した。


 第三に、空軍が創設された場合、欧州に派遣されている人員数から考えても海軍航空隊による陸軍航空隊の吸収合併ということになってしまう。

 それに、ただでさえ、ヴェルダン要塞攻防戦等で大量の人員を失っている海軍が、これ以上空軍への異動を認めることで、人員を減らすのは大変困るという主張である。


 第四に、やはり艦隊には航空兵力が必要不可欠であるという理想論である。

 海軍には、水上機も艦上機も飛行艇も飛行船も、そして陸上機も全て必要不可欠な航空兵力だという主張である。

 そんな航空兵力を整える軍事費は無い、という反論に対しては、必要な軍事費を確保しないことは国を危うくする亡国の道であるという反論を加えた。


 第五に、空軍を独立させた後も引き続き、海軍は独自の陸上機を運用する基地航空隊がいざと言う際には欲しいという主張であった。

 将来のことはわからない、もしかすると、数十年先には基地航空隊により戦艦でさえ沈められるようになるかもしれない、そういった時に備えて、独自の陸上機を運用する基地航空隊は維持したいといったのである。


 これら五点の反対理由に加え、もう一つ、反対の論拠とされたのが、空軍保有は大日本帝国憲法に違反するという主張である。

 大日本帝国憲法第11条に「天皇は陸海軍を統帥す」(原文はカタカナ書き)とあるように、憲法上に空軍の事は出て来ない。

 だから、空軍を保有することは憲法違反だという理屈である。


 山本元首相は、海軍の小笠原少将らの最初の5つの論点には、まだ理解を示したが、最後の憲法違反という論点は激怒して叱り飛ばすことに決め、加藤海相を通じて、小笠原少将を海軍省に出頭させた。


「空軍創設は、憲法違反とのことだが、本当にそう主張するのか」

 山本元首相の質問に、小笠原少将は答えた。

「憲法に書かれていない空軍を保有することは明らかに憲法違反であります」

「ほう、我が海軍が憲法違反をしていると貴官は主張するのだな」

「我が海軍のどこが憲法違反をしていると」

「海兵隊も憲法に書かれていないが、我が国は保有しており、海軍の隷下にある。それを知らぬのか。貴官の発言は、我が海軍が憲法違反をしていると主張しておるのに等しい」

「そんなつもりはありません」

 小笠原少将は慌てて返答した。

「では、陸軍の隷下に半独立の空軍を設置することが憲法違反となり、海軍の隷下に半独立の海兵隊を設置することが憲法違反にならないのか、今すぐに説明せよ」

 山本元首相は、小笠原少将に詰問した。

 小笠原少将は返答に詰まってしまった。


「加藤、小笠原を速やかに退役させろ。法律を知らぬ者が憲法違反を言いだしたら、ろくなことにならん」

 山本元首相は加藤海相に半分、命じた。

 この年、この一件が原因で、小笠原少将は予備役編入処分を受けることになる。

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