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第3章ー4

 海軍というのは、21世紀になった現在、ミサイルやレーダー等の先端技術の固まりというイメージがあるが、実は伝統的にも海軍は当時の先端技術の固まりだった。

 例えば、史実の太平洋戦争においては、レーダーやソナーといった先端技術面の差で日本海軍は米海軍に対してどうにもならなくなって敗北した。

 この当時も海軍は先端技術の固まりで、日本でさえ日露戦争後になっても、金剛級戦艦の一番艦「金剛」については、英国に発注して戦艦の建造技術を改めて学んだくらいである。

 だから、ソヴィエトから知識人階級が共産主義革命により続々と亡命しつつあるというのは、日本海軍から見れば、仮想敵国海軍のソヴィエト海軍の長期的な弱体化につながる動きと言えた。


「そう言ったことや我が国の国力から考えると、陸上機については完全に陸軍、いや空軍に移管してもよいのでは、とわしは考えるのだ」

 山本元首相はあらためて加藤海相に説いた。

 加藤海相は、なるほどという顔をした。

「それでも、四の五の抜かす奴が海軍本体にいるかもしれんので、そういう奴らに対する殺し文句を教えてやろう」

 山本元首相は、年に似合わない悪童が浮かべるような笑みを浮かべながら言った。

「海軍が基地航空隊を持ったら、海兵隊が国会議員等に地上支援の爆撃機等を海軍に整備しろ、と働きかけますよ、とそういう奴らにささやいてみろ。態度を豹変させるはずだ」

「かないませんな。大先達の山本元首相にかかっては。相手が気の毒になってくる」

 加藤首相は笑って言った。


「そもそもな。飛行船に飛行艇、水上機に艦上機、海軍に必要な航空関係のモノは多過ぎるのだ」

 山本元海相は本音をこぼした。

「確かに陸軍に必要な航空関係のモノは、陸上機と気球または飛行船くらいのものしか必要で無いのに対して、海軍は多すぎますね」

 加藤海相は肯きながら言った。


「米国を仮想敵国として海軍整備をするのならまだしもだが。実際問題として、飛行艇や水上機、艦上機に加え飛行船と。そのための開発費用ですら、それなりに費用が掛かる。正直やっていられるか、と啖呵を切りたくなるくらいだ」

「はは。確かにその通りです」

 山本元首相と加藤海相は本音で話し合った。


「島村速雄海軍軍令部長は、私の方から説得して見せますので、ご安心を。ところで、海軍内の意思統一ができたとしても、陸軍や議会対策の方は大丈夫なのですか。下手をすると、空軍創設は憲法違反だと叫ぶ輩が出てきそうですが」

 加藤海相は心配して山本元首相に忠告した。

 山本元首相は鼻で笑った。


「わしの政治才覚を馬鹿にしてもらっては困るな。伊達に元老待遇を受けておるわけではないぞ。議会対策についてだが、政友会は元々わしが首相を務めていた時の準与党ではないか。原敬とかは説得して見せる。野党についても、それなりの目途は立てている」

 山本元首相は欧州派遣軍総司令部の協力も仰ぐつもりだった。

 林忠崇元帥なら、自分の意向を汲んでくれるだろう。

 原敬のいる政友会に加え、林元帥を通じてあの男も協力してくれるなら議会対策はまず万全だ。

 問題は陸軍だが、と山本元首相は考えを巡らせた。


 大島健一陸相は準長州閥で、寺内首相の意向に従うだろうから、わしが寺内首相と直談判等することで陸軍省は何とかなるだろう。

 問題は、参謀本部だ。

 上原勇作参謀総長は、反長州閥だし、航空機については、地上部隊の支援を主任務とすべきとのことで、空軍独立に否定的とのことだ。

 ここはアメで行くか。

 欧州派遣で得られた数百機の海軍の陸上機を全て陸軍に譲渡する代わりに空軍独立を呑ませるのが、妥当な落としどころか。

 山本元首相は黙考した。 

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