第3章ー1 日本空軍設立
場面が変わり、日本が舞台になります。
1918年5月、独の春季大攻勢「カイザーシュラハト」をしのぎ、返り討ちにしたとして、日本国内では勝利の予感から、景気のいい話が起こるようになっていた。
その一方、日本陸海軍内では今後の航空隊の扱いについて、微妙な議論が交わされるようになっていた。
「英国では、先月、陸軍飛行軍団と海軍航空隊が統合されて空軍が設立されました。我が国でも空軍設立を検討すべきでは」
陸軍の運輸部本部長の井上幾太郎少将らは寺内首相らに働きかけるようになっていた。
「これ以上、航空戦力を海軍が保有することになっては、艦隊の増強がままなりません。山城から後に建造する予定の戦艦、仮称、伊勢と日向の建造すら困難になります。空軍設立も考慮されるべきです」
海軍の加藤寛治少将らも東郷平八郎元帥らに働きかけていた。
こういった動きは当然、山本権兵衛元首相や斎藤実元海相らにも把握されていた。
「空軍設立の動きか。斎藤はどう考える」
山本元首相は斎藤元海相に問いかけた。
斎藤元海相はしばし考えにふけった。
山本元首相本人としては、首相辞任後は楽隠居を決め込みたかったのだが、加藤友三郎海相らがそうさせまいとうごめいた。
それに山本元首相は元々、桂太郎や西園寺公望といった首相から元老になった人物に匹敵する逸材だと伊藤博文元首相や元老の井上馨らに評価されていた。
シーメンス事件を無難に切り抜けたことや伊藤元首相の遺言もあり、首相を辞めた後、山本元首相は元老としての待遇を受けるようになった。
これについては、山県有朋元首相はいい顔をしなかったが、寺内正毅首相が首相辞任後は元老となることが西園寺らに確約されることで了解していた。
しばらく考え込んだ後、斎藤元海相は、山本元首相に反問した。
「そもそも我が国の空軍は何を目的に建設されるべきだと考えますか」
「ふむ」
山本元首相も思わず考え込んだ。
ちなみに、欧州からの最新の戦訓等は実戦経験を積んだ日本軍人により、日本に遅滞なく届いている。
加藤海相らの便宜により、山本元首相も斎藤元海相もそういった戦訓等を認識している。
「我が日本の空軍は、制空任務と地上部隊の支援を主な目的とすべきだな。艦隊の支援は、飛行船や飛行艇、水上機といった存在を存分に活用することで何とかなるだろう。陸上機を保有する基地航空隊は海軍に何としても必要な存在ではあるまい」
山本元首相はしばらく考え込んだ末に言った。
「私も同感です。陸上機が戦艦を沈められるというのならまだしも、飛行船、飛行艇、水上機を活用することで陸上機でないと対応できない任務はないと私にも思われます」
斎藤元海相も言った。
「ともかく、地上部隊の支援ができる空軍部隊なら、海兵隊の支援ももちろん可能だな」
山本元首相は更に言った。
「言うまでもありません」
斎藤元海相も答えた。
「そう考えていくと、陸軍の井上幾太郎少将や海軍の加藤寛治少将の動きは、むしろ海軍本体にとっては後押しした方がいいという見方ができないだろうか」
山本元首相は悪い顔を浮かべて言った。
「確かにそういう見方もありえますな。何しろ海軍航空隊が海兵隊支援に力を注がざるを得なくなり、本来の海軍本体支援を海軍航空隊は行う余力がないという、いびつな状況に我が国は追い込まれています」
斎藤元海相も悪い顔を浮かべながら言った。
山本元首相も斎藤元海相も、お互いの本来の出身母体(山本元首相は海軍本体、斎藤元海相は海兵隊)の本音はお互いにわきまえている。
2人は顔を見合わせた後で、お互いに爆笑し合った。
「では、動いてみるか」
笑みを消さないまま、山本元首相がまず言った。
「私も動いてみます」
斎藤元海相も笑顔のまま言った。
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