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第2章ー3

 第一次世界大戦で欧州に派遣された日本海軍本体の通商保護、または商船の護衛任務は、年によっても多少は違ってくるが、最も重要視されたのは、日本本土から欧州に派遣された日本海兵隊等の兵員や軍需品等を積んだ輸送船の護衛任務だった。

 何しろ日本海軍本体が地中海まで遥々派遣された一因が、日本海兵隊員の遺骨や遺品を積んだ輸送船が独潜水艦の襲撃により沈められたために、祖国、日本まで海兵隊員の遺骨や遺品が還ることなく地中海に沈んだことだった。

 日本海軍の軍人の多くが、そのことについては後悔の念を抱いて、自らの任務に当たっていた。


「日本から艦隊が派遣された当初は、紅海もトルコ軍の機雷敷設等により完全に安全とは言えなかったが、英軍とそれに協力するアラブ族によりアカバ等が占領されたからな。その後は、地中海に自分達は専念できることになった。それは本当にありがたい」

 田中頼三中尉は言った。

「全くだな。紅海の掃海任務まで、日本海軍が行う余裕は無かったからな」

 木村昌福中尉もそれには肯いた。


「だが、地中海の通商保護任務も、実際にやってみると本当に大変で、駆逐艦36隻を主力とする日本海軍の欧州派遣艦隊では、所詮は蟷螂の斧なのがやるうちに分かったろう」

 木村中尉の一言に、田中中尉は嫌な顔をしつつ言った。

「それは言わない約束だ。通商保護任務がこんなに手間暇掛かるモノとは思わなかった」


 地中海を第一次世界大戦当時、洋上航海している英仏日伊等の連合国の商船は、期間中に増減があるのであくまでも大よそだが200隻だと言われていた。

 これを護衛するには最低でも通商保護に専任する70隻の駆逐艦が必要だった。


 更に沿岸航海する英仏日伊等の連合国の商船には哨戒艦が別途必要だった。

 地中海の沿岸航海距離は2000海里以上ある。

 そして、10海里毎に哨戒艦1隻が最低でも必要だった。

 つまり、哨戒艦は200隻以上が必要だったのだ。


 更に付け加えると駆逐艦にしても、哨戒艦にしても常時出撃可能とは限らない。

 艦自体の整備や乗員の休養、更には損傷を被った場合の補充等が必要なので、上記の数字の2倍半が最低でも実際には必要となる。

 つまり、駆逐艦は175隻以上、哨戒艦は500隻以上が現実には必要と言うのが、地中海の通商保護の現実だった。


 だが、現実には地中海の通商保護に専任する英仏日伊の駆逐艦は最大時でも140隻に満たず、哨戒艦は100隻に満たなかった。

 幸か不幸か、英仏日伊等の連合国の懸念程、沿岸航海する商船を独墺等の同盟国の潜水艦は襲わなかったので、沿岸航海の哨戒艦の不足はそんなに問題にならなかったが(哨戒艦が実際に必要とされる2割以下しか配備されなかったのは、それが最大の原因だった。実際にはそんなに被害が出ていない以上、他に優先して回すべきモノが連合国には数多有ったのだ。)、駆逐艦の不足は問題になった。


 それを補うために、英仏日伊等の連合国は様々な手段を講じた。

 アドリア海に展開する独墺潜水艦の出撃を連合国は阻止しようとし、アドリア海の出口に当たるオトラント海峡には、防潜網に機雷堰を張り巡らせ、それを支援する様々な艦艇が最大時150隻も配備された。

 言うまでもなく、航空機もその支援に当たっている。

 また、コンスタンチノープルにも、連合国の監視の目が張り巡らされた。


 だが、独墺土の潜水艦はそれをあざ笑うように、地中海を航行する連合国の商船を襲った。

 最も酷かったのは1916年の後半の半年間で、その間に200隻以上、50万トン余りの商船が地中海では沈められた。

 この間は、連合国の海軍にとっては屈辱の日々だった。


 木村、田中両中尉にも忘れられない想い出だった。


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