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第2章ー1 地中海での戦闘

 第2章の始まりになります。

 1918年4月下旬、木村昌福中尉は、いつの間にか日本海軍士官の溜まり場となった、とあるマルタ島の酒場で人を待っていた。

「半舷上陸で休みの筈だが」

 木村中尉が呟きながら、ジントニックを少しずつ呑んでいると、待ち人が駆け込んできた。

「すまん、遅くなった」

 そう言って、待ち人、海軍兵学校の同期生の田中頼三中尉が酒場の出入り口から飛び込んできた。

「いや、こっちが早く来ただけだ」

 木村中尉も田中中尉に声を掛けた。


「何で遅くなったんだ。差支えなかったら教えてくれ」

「いや、飛行船に乗ることになりそうなんだ」

「飛行船?」

 木村中尉は、田中中尉の答えに驚いて、思わず言った。

「俺たちは船乗りだろう」

「そのとおりなんだが」

 田中中尉は難しい顔をしながら言った。

「だが、航空支援は欲しい、違うか」

「まあな」

 木村中尉は、ジントニックのお代わりを頼んだ。


 ここは地中海だ、マラリア対策の一環としてジントニックを好む海軍士官が多い。

 この酒場のジントニックは、現地のマルタ人や外国の海軍士官には好評かどうか、自分にはわからないが、日本海軍士官の間では、この酒場が多分一番旨いと評価されている。

 自分も、この酒場が一番旨いと断言できる。

 ジントニックを味わいながら、木村中尉は考えを巡らせた。


 ここ地中海で、日本海軍は明治維新の建軍以来、初めて本格的な通商護衛を行う羽目になっていた。

 もちろん、日露戦争時もウラジオ艦隊の跳梁に第2艦隊が奔走したことがあるし、この大戦の当初でも通商破壊を試みた独東洋艦隊への対策に日本海軍は出動している。

 だが、水上艦の襲撃だけを基本的に考えればよかった従前とは、地中海の戦いは違っていた。


「水上艦だけ考えればよかった昔と違い、今は、潜水艦、機雷等も商船攻撃に使われる。それに対して、こちらも機雷をばらまき、商船護衛に駆逐艦等を張りつけ、潜水艦をお返しに放つ。そして、航空支援も欲しいか」

 木村中尉は言葉を発した。

 田中中尉は肯きながら言った。

「対潜作戦に航空支援はぜひとも欲しい。違うか」

「そりゃ、自分だって欲しい」

 木村中尉もそう言った。


「だが、肝心要の海軍航空隊は、海兵隊支援に張り付いてしまった。海軍本体に航空支援はいるのにだ」

 田中中尉の言葉に熱がこもり出した。

「それで、英海軍に話を持ちかけたところ、英海軍の飛行船部隊を日本艦隊に協力させてくれることになりそうだということだ。その場合に連絡士官として、自分を派遣したいと艦長から言われたのだ」

「ほう」

 木村中尉はそう言って、少し思いを巡らせた。


 誰が英海軍に飛行船部隊の派遣話を持ちかけたのだろうか。

 普通に考えれば八代六郎欧州派遣艦隊長官だが、それより上が動いた可能性が高い。

 林忠崇元帥は、海兵隊畑しか経験していないし、仏との縁は深いが、英海軍と縁は薄い。

 そうなると、加藤友三郎海相あたりだろうか。


 それにしても、と木村中尉は少し酔いが回った頭で更に考えた。

 とうとう飛行船まで我が海軍が欲しいという時代になったか。

 水上艦、潜水艦を我が海軍は保有していた。

 そして、飛行機を我が海軍は保有するようになったが、飛行機の種類も陸上機のみならず、水上機、飛行艇、更には艦上機と発展しつつあり、それらも欲しい物だ。

 更に、飛行船まで我が海軍は欲しいか。

 金がいくらあっても足りない。

 英海軍から当座は飛行船部隊を派遣してもらうしかないか。

 木村中尉は内心でそう思ったが、とりあえずは歓迎すべきだと考えた。 


「それはいい話を聞いたな」

「いい話だろう」

 木村中尉の内心に気づかずに、田中中尉は素直に喜んでいた。

「英国海軍の飛行船に乗り組む時が楽しみだ」

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