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幕間1-3

「最新のロシア情勢はどうなのだ」

 閣議の空気を変えるために寺内正毅首相は本野一郎外相に説明を求めた。


「先日、3月3日に独は新生ソヴィエト政府とブレスト=リトフスク条約を正式に締結したことが完全に確認できました。独にとって東部戦線は無くなりました」

 本野外相は閣議の列席者に説明した。

 閣議の雰囲気はさらに重くなった。


 1917年3月、ロシアで革命が起こった当初、英仏と同様に日本もこの革命自体には微温的な態度を示した。

 そもそも欧州に派兵している日本にロシアに干渉する余裕は無かった。

 それに、ロシアが民主化して立憲君主国になることで、米国に対し、民主主義を護るために参戦してほしいということが出来るということも顧慮されたのである。

 更に新しいロシアの革命政府は、当初は独等との戦争継続を表明していた。

 革命騒動が起きたとはいえ、そのまま独等と戦争をしてくれるのならば、余計なことを日本はする必要が無かった。

 だが、それも同年の10月までだった。


 1918年3月の革命騒動で、ロシア国内には一度に厭戦ムードが広まった。

 更に厭戦ムードの広まりは、ロシア軍の兵士の士気を低下させて、それがロシア軍の敗北を招き、更にロシア国内に和平を求める声をより高めて、ロシア国内に厭戦ムードをさらに広めるという悪循環をもたらした。


 1917年11月、即時の和平を求めるレーニン率いるポルシェビキが革命により、ロシアの中央政府を掌握した。

 世界で初めて共産主義者が政権を握った。

 このことは英仏等、それにもちろん、日本をも震撼させた。

 更にポルシェビキ率いるロシア政府は無賠償、無併合での単独講和を独墺等と図った。

 これは英仏日といった連合国にとって完全な裏切り行為だった。


 英仏は新生ロシア政府を厳しく非難し、日本もそれに同調した。

 だが、声明を出すだけに止めるしかなかった。

 実際に軍事的、経済的に何らかの介入手段を執ること等、世界大戦の真っ最中にできるわけがなかった。


 一方、独墺等はそんな単独講和に応じられるわけがなかった。

 物資や賠償金を新生ロシア政府、いやソヴィエト政府から講和条約によって少しでも手に入れないと戦争を続けられる状態ではなかったのだ。

 そのため、独墺等はソヴィエト政府との戦争を継続した。


 これに対し、ソヴィエト政府は、レーニン等、賠償金の支払い等に応じて即座に講和すべきとする和平派、ブハーリン等、独墺でも革命が起こることを期待して戦争を継続すべきとする強硬派、トロッキー等の中間派で大論争になった。

 更に旧ロシア帝国内でもウクライナ等で分離独立運動が革命に乗じて活発になり、中には武装蜂起にまで至り、遂には臨時政府の樹立宣言にまで至るようになった。


 こうした中、1918年2月、ウクライナ西部を事実上掌握していたウクライナ人民共和国政府(なお、ウクライナの東部、中央部ではポルシェヴィキ派が優勢で、ソヴィエト政府が支配していた)が独と単独講和して、ウクライナの完全独立を主張し、独墺側に事実上立って参戦した。


 この事態を受けて、和平派のレーニン等がソヴィエト政府の主導権を握った。

 そのために、独墺との和平交渉が急速に進むことになり、1918年3月3日、ソヴィエト政府はウクライナやバルト三国、フィンランド、ポーランド等の独立を事実上認めること等を条件とするブレスト=リトフスク講和条約を独墺等と締結した。

 ここにソヴィエト政府は完全に第一次世界大戦から脱落したのである。


「余りにも痛いですな。ロシア、いやソヴィエト政府がこの大戦から脱落したというのは」

 大島健一陸相がため息を吐きながら言った。

 その気持ちを閣議の多くの者が共有していた。 

 疑問を持たれる方も多いとは思いますが、私が調べる限り、史実でも2月革命(3月革命)勃発の時点では、英仏日等は露革命については、露が立憲君主制を採用して落ち着くと見ていたようです。

 史実の露革命が完全に英仏日等に敵対視されるようになったのは、10月革命(11月革命)以降のようで、この後、英仏日等は積極的に干渉するようになったと私は判断しました。

 それで、この世界でも同様の流れを取って、露革命が英仏日等に敵視されることになったように描写することにしました。

 

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