表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/120

幕間1-2

 1918年4月現在のこの世界の中国情勢等の説明になります。

 同じ頃、日本では寺内正毅内閣の閣議が開かれていた。


「中国では段祺瑞が袁世凱亡き後、北京で実権を握っています。一方、広州では孫文が政府を組織しています。中国は南北に分裂していると言っても過言ではない状況です」

 本野一郎外相が最新の中国情勢を報告していた。

「孫文に独政府から秘密裏に資金援助があるという未確認情報を海軍は得ているが、その可能性はあると外相は思われるのか」

「その可能性は否定できません」

 加藤友三郎海相の問いかけに、本野外相はそう答えた。

 後藤新平内相等も難しい顔をしている。


 中国については日本の権益を侵さない限り、厳正中立を維持するというのが寺内内閣の基本方針だった。

 もちろん、それには理由がある。

 日本には余裕が全く無いのだ。


 1914年に第一次世界大戦に日本が参戦して以降、日本は欧州で膨大な損害を被っていた。

 1918年春現在、日本は日露戦争をしのぐではないかという死傷者を欧州で出していた。

 そのためにロシア革命が満州、韓国に波及することを怖れつつも、日本は身動きが取れないという有様にさえなっていた。

 もっとも脅威度が高いロシアの共産主義革命さえ黙視せざるを得ないのだ。

 中国に介入する余裕等、あるわけがなかった。


「弱りましたな。孫文は日本に亡命したこともあり、日本贔屓と思っていたのですが、日本の敵の独政府から資金援助を受けているかもしれないとは」

 後藤内相が半分独り言のように言った。

「敵の敵は味方と言うことだろう。中国全体の独立を強く主張している孫文らにとって、日本の満蒙利権は何としても取り返さないといけないものだ。更に山東省まで日本の手におちようとしているのだからな」

 寺内首相が発言した。

 周囲もその言葉に肯いた。


 第一次世界大戦に参戦した見返りとして、日本は独の東洋利権を全て獲得すること、更に相応の賠償金を独から取得することが英仏(更に暗黙裡に米)から認められていた。

 当然その中には、山東省の独利権が含まれている。

 中国の段祺瑞率いる北京政府は、少しでも山東省の独利権を取り返そうと英仏側に立って名目参戦していたが、そのことが却って中国の多くの民族主義者、排日米英主義者に北京政府は日本に味方したとみられてしまい、ますます中国の混迷を深める結果を招いていた。


「単純な軍事力だけなら、袁世凱率いる北洋軍閥の大部分を受け継いだ段祺瑞の北京政府が、孫文の広州政府を圧倒しているのですが、中国民衆の支持は孫文の方に集まっていますからね。それに北京政府は、段祺瑞以外にも数多くの領袖がいて、半分分裂状態です。本当に日本にとっては厄介極まりない」

 本野外相が現状を要約した。

「米国や韓国の中国問題での意向は?」

 加藤海相は本野外相に尋ねた。

「基本的には日本と同様に厳正中立を維持したいとのことです。ただ、米韓共に北京政府と広州政府の軍事対立が万里の長城以北に波及するのなら黙視はできない。最悪の場合、満蒙利権を自衛するために派兵を検討すると言っています」

 本野外相は答えた。

 寺内首相はそれを聞いて言った。

「難儀なことを言う。その際には、日本も共同して派兵してくれと言っているのだろう」

 本野外相は黙って肯いた。

「勘弁してくれ。日本にそんな余裕はない。米国はともかく、韓国には軽挙妄動をするな、と太い釘を刺しておけ」

 寺内首相は本野外相に命じた。

 閣議のメンバーの多くも寺内首相に同調しながら思った。

 全く義和団事件や日露戦争で中国との戦争はもうかる、と韓国は思ったのではないか。

 今の日本に対中戦争の余裕はないのだ。

 韓国に火遊びをされては困るのだ。

 ご意見、ご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ