第1章ー20
同じ頃、英仏日統合軍司令部では歓声に包まれていた。
独軍の1918年春季大攻勢「カイザーシュラハト」は明らかに失敗に終わり、英仏日統合軍は大勝利を収めたのだ。
喜びに沸いて当然だった。
「今度こそ、配下の将兵に今年のクリスマスには家に帰れると言ってやれそうだな」
ヘイグ将軍が言うと、フォッシュ将軍が混ぜ返した。
「そんなことを言っても誰も信じまいがな」
「はは、違いない」
横にいたペタン将軍も言った。
英仏日全ての将軍、提督から末端の兵までが戦に倦んでいる。
だが、今回の勝ちは勝ちで素直に祝うべきだった。
「それにしても、独軍は陸空共に大敗を喫したものだ」
フォッシュ将軍は言った。
「リヒトホーフェン兄弟以下、多くの独軍パイロットが失われたそうですな」
「ええ、部下がよく働いてくれました」
林忠崇提督は含羞に満ちた表情をした。
日本軍は今回の独軍の攻勢に対して、一兵も最前線に差し出せないはずだったが、山下源太郎提督の独断により海軍航空隊の一部が最前線に赴いた。
そして、リヒトホーフェン兄弟達以下を戦死させ、独軍第1戦闘航空団を壊滅に陥らす戦果を挙げた。
この戦果については、英仏米の航空隊からは羨ましがられている状況だった。
「けしからんですぞ。我が英軍の戦闘機を日本海軍には使っていただきたかった」
ヘイグ将軍が笑いながら言った。
「師匠の戦闘機を使わないとは許し難い」
「何を言われる。日本海兵隊の師匠は仏陸軍だと言ってきたではありませんか。仏軍戦闘機を使うのが当然ですな」
フォッシュ将軍も笑いながら言った。
「はは」
林提督は苦笑いした。
レッドバロンことリヒトホーフェン大尉を戦死させたのは、日本海軍の吉良俊一大尉の操る仏製スパッド13戦闘機の射撃ということになっている。
実際には疑問があるそうだが、仏製戦闘機を操る日本最高の撃墜王によって独最高の撃墜王が戦死したというのは大ニュースになっている。
スパッド社から宣伝のお礼としてスパッド13戦闘機のライセンス生産を日本に認めてもいいという話があるくらいだ。
「ところで、英仏日統合軍総参謀長を降りたいのですが、よろしいでしょうか」
林提督は、フォッシュ、ヘイグ両将軍に話を持ちかけた。
「何をいきなり言われる」
ヘイグ将軍のみならず、フォッシュ将軍も慌てた。
「後任として米軍のパーシング将軍を推薦します。それで、米軍も取り込みましょう。そうしないと独本土への侵攻は困難です」
林提督は淡々と言った。
両将軍は共に唸った。
確かに米軍が本格的に協力してくれないと独本土への侵攻は困難だ。
「代わりに、各州出身者を集めた「レインボー」米第42師団のように、英仏米日を合わせた軍を編制していただき、その軍司令官に私を当てていただきたい。その軍を私は率いて、ベルギーを独軍の手から取り戻したいのです。そうすれば、ベルギーは英仏米日共同で取り戻したことになります。それに、私は軍を率いるのが性に合っているもので」
林提督は自分の希望を述べた。
両将軍は更に思った、確かにベルギーを独から取り戻す4国連合軍の司令官に林提督程、適任の司令官はいまい。
だが、一つだけ問題がある。
「その軍への転属志願者が我が仏軍から続出しそうですな。精鋭がごっそりいなくなりそうだ。極めて困った問題が引き起こされる」
フォッシュ将軍が言うと、ヘイグ将軍も肯きながら言った。
「確かにベルギーを独軍の占領下から取り戻すのに4国連合軍が協力して当たるというのはいい話ですが、林提督が総司令官では、我が英軍からも転属志願者が続出しそうです。しばらく考えさせてください」
だが、2人共笑っている。
林提督は思った。
多分、自分の希望は通るだろう。
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