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第1章ー18

 朝の光のために先に相手を発見したのは独軍機側だった。

「全機上昇せよ。優位高度から日本軍機に攻撃を仕掛ける」

 手信号等を使って、リヒトホーフェン大尉は指揮下にある第1戦闘機航空団に指示を出した。

 内心では躊躇いがある。

 本当なら50機以上が出撃可能なはずだが、30機しか出撃できなかった。

 それに、歴戦の勘が警報を発していた、今日の相手はどうも違うと。


 日本側はやや遅れて、独軍機を発見した。

 こちらから東に向かう関係上、朝は逆光の中を進撃することになる。

「仕方ないか。どうしても向こうの方が、発見するのが先になるのは」

 独軍機の機動を見ると、先に発見されているのが分かり、山本五十六少佐は呟いた。

 前席の井上成美大尉も自分とほぼ同時に気づいたのか、敵機発見の合図の翼を振る行動をした。

 日本軍機全機は直ちに散開、独軍機に襲い掛かった。


「何?」

 日本軍機を襲おうとしたウーデッド中尉は目を疑った。

 日本軍のDH4は新型か?

 明らかに自分達より優速で、上昇力が優れている。

「いかん」

 爆撃機を襲撃するはずが、こちらが狩られる立場だったとは。


 空戦が終わった時、リヒトホーフェン大尉は弟ロタールと共に帰らぬ人となっていた。


 吉良中尉の回想録からの引用

「公式発表では、自分がリヒトホーフェン大尉機を撃墜したことになっている。実際、リヒトホーフェン大尉機に射撃を自分が浴びせたのは間違いない。だが、戦後、発表された遺体の状況からすると自分の射撃の弾とは思えない。しかし、日本海軍のトップエースの前にリヒトホーフェン大尉は散ったというのは、敵味方双方にとってリヒトホーフェン大尉の名誉を保つことだった」


 草鹿中尉の死後に発表された日記の記載

「吉良中尉の射撃を、リヒトホーフェン大尉は、フォッカーDr1の三葉機特有の旋回性能を生かしてかわしていた。しかし、その機動を私は読んでおり、一連射をリヒトホーフェン大尉機に浴びせたところ、操縦席付近に弾が命中して、リヒトホーフェン大尉機は墜落していった。山本少佐に報告したところ、吉良大尉にその戦果を譲ってほしいと頼まれた。敵戦闘機の手に掛かったことにしてあげたいというのだ。私は同意した」


 ウーデッド中尉の直筆の報告書の記載

「リヒトホーフェン大尉は、一撃離脱に徹した日本軍機に対し、巧みな戦闘機動で対処されましたが、速度に劣る我々の戦闘機では、大尉と言えど日本軍機への対処は困難でした。前上方からの日本軍機の一連射が、大尉の操る戦闘機の操縦席に浴びせられ、大尉が墜落していくのが、私の目に入りました。大尉、と私は思わず絶叫しましたが、大尉に聞こえる筈もありません。大尉はその時に戦死されたものと私は確言します」


 この日、独軍は5機を喪失し、日本軍は戦闘機1機を喪失した。

 だが、独軍側にとって余りにも痛かったのは、リヒトホーフェン兄弟を揃って失ったことだった。

 幸いなことに、兄弟が戦死したのは独軍の飛行場の近くだったので、兄弟の遺体は独軍の手によって確保された。


 第1戦闘機航空団に所属する全員が、飛行場に運ばれてきたリヒトホーフェン兄弟の遺体を出迎えた。

 幸いなことに2人の致命傷は胴体部によるものだったので、きれいな顔のままだった。

 ウーデッド中尉やラインハルト中尉といった第1戦闘機航空団に所属していた操縦士全員が兄弟の戦死を嘆いて泣いた。

 そして、皆が内心で思った。

「ミヒャエル」が大敗に終わり、独軍航空隊にも黄昏が近づきつつある。

 我が祖国、独帝国が敗北を迎える日は近いだろう。

 リヒトホーフェン兄弟が祖国の敗北を目にすることなくヴァルハラへ赴けたのは、幸せな最期だったと言えるのではないか。

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