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第1章ー15

 少し場面が変わります。

「何としても制空権を確保せよ、か」

 リヒトホーフェン大尉は、戦況が悪化しつつあるのを肌に感じながら、4月1日の早朝にその命令を受けた。

 自らの率いる第1戦闘航空団は、独軍の切り札とも言える最精鋭航空隊だ。

 その第1戦闘航空団は、退却を始めた「ミヒャエル」作戦参加部隊への空の傘を死守せねばならなくなっていた。


「作戦発動時には2000機が出撃可能と謳われた我々の航空機も次々と損耗する一方か」

 リヒトホーフェン大尉は、明け方の空を見上げながら更に呟いた。

 独軍航空隊は、「ミヒャエル」作戦を全力で支援していた。

 戦闘機隊は制空権確保に奮戦し、爆撃機隊は地上支援任務に従事し、偵察機隊は、砲撃の地上観測から敵部隊の移動まで把握しようと努力していた。

 だが、所詮は物量の前に押しつぶされつつあった。


 英仏軍航空隊は協力して独軍航空隊を迎え撃っていた。

 更に悪いことに独軍航空隊は物資が欠乏していた。

 英仏軍航空隊は航空機が故障しても速やかに補充部品等があり、修理も容易に行えた。

 独軍航空隊は物資不足にあえいでおり、故障した際の補充部品にも事欠き、更に故障が多発していた。

 航空機にとって飛行中の故障はほぼ致命的である。

 気が付けば、3月21日に「ミヒャエル」作戦を発動したのに、4月1日の今日には独軍航空隊の総力出撃可能機数は1000機に満たなくなっていた。

 そして、英仏軍に加え、米陸軍航空隊も前線に出没しだしていた。


 リヒトホーフェン大尉は知らなかったが、パットンの失言問題は、米陸軍省を震撼させた。

 陸軍本体は無理だが、航空隊は英仏軍航空隊に直ちに協力すると米陸軍省は弁明せざるを得なくなり、そのために米陸軍航空隊は「ミヒャエル」に際して、英仏軍の応援に駆け付けてきていたのである。


「4月1日にしては悪い冗談に思われます」

 いつの間にかリヒトホーフェン大尉の横にいたウーデッド中尉が、情報士官から小耳に挟んだ話ですが、と前置きをして話し出した。

「英仏米航空隊の総力出撃可能数は3000機に達するという情報があるそうです。我々の総力出撃可能数の3倍以上ですな」

「4月1日に聞く冗談にしては最悪の冗談だな」

 リヒトホーフェン大尉は苦笑いをしながら返した。

 その情報は本当だろう。


「今月一杯、生き抜けるか、不安になってきたよ」

 リヒトホーフェン大尉は思わず言った。

「隊長」

 ウーデッド中尉は絶句した。

 縁起でもない科白ではないか。


「せめて、赤い日の丸が付いた航空機を見てから死にたいな。ベルケ隊長の仇は討ちたい」

 リヒトホーフェン大尉は更に言った。

 ヴェルダンで日本海軍航空隊の数の優位の前になぶり殺しにされたベルケ隊長の無念を晴らしてから、自分はヴァルハラに行きたいものだ。


「止めてください。本当になりそうです」

 ウーデッド中尉は、リヒトホーフェン大尉を諌めた。

「4月1日だ。悪い冗談として許してくれ」

 リヒトホーフェン大尉は、ウーデッド中尉の瞳を見据えて言った。

「だが、赤い日の丸を付けた航空機が見られるという予感はある。日本海軍航空隊が前線に出て来ないわけがない」


 4月1日、急きょ最前線派遣が決まった日本海軍航空隊72機はアミアン近くの飛行場に展開していた。

「中島大尉、全機出撃可能状態を維持してくれ」

「無理を言いますな、ですが最善を尽くすことを約束しますよ」

 山本五十六少佐の命令に、中島知久平大尉も半分軽口で答えた。


 全搭乗員を集めた場所で、山本少佐は発言した。

「我々の任務は単純だ。制空権の維持確保だ。そのためにレッドバロンことリヒトホーフェン大尉率いる第1戦闘航空団を全力で潰すのを最優先任務とする」

 その場に集まった搭乗員達は顔を見合わせた。

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