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エピローグー5

 史実では、この頃の「小松」は閉店しているらしいですが、この世界では歴史の流れが違い、開店しているということでご了承ください。

 1919年12月19日の夜、横須賀の料亭「小松」は30歳近くに見える士官20名の宴会を受け入れていた。

 海軍兵学校41期生の同期会が開かれることになっていたのだ。

 1913年12月19日の海軍兵学校の卒業式のあの時いた同期生は118名だった。

 だが、6年が経ち、この場に集えたのは2割にも満たなかった。

 同期会の面々は、皆、複雑な表情を浮かべながら、「小松」に入った。


「よく来てくれたな」

 この同期会の発起人であり、幹事を務める大田実大尉は、集まってくれた同期生を歓迎して、心から歓待した。

「後、4人がどうにも都合がつかなくて、欠席の連絡をしてきた。同期生全員を揃えたかったが、残念だ」

 大田大尉の目には光るものがあった。

 大田大尉の歓待を受ける側の人の目も大抵が光っていた。

 4年に渡る世界大戦は、同期生118名の内94名を黄泉路へと旅立たせていた。

 軍人として戦死するのは、この世の倣いとはいえ、多くの同期生が30歳にもならずに亡くなったというのは、余りにも重い結果だった。

「同期会に、どうしても出席したいと言ってこられた方が3人いてな。おいおい来られるはずだ」

 大田大尉は一言付け加えた。


「それでは」

 同期会の面々が揃い、杯が回った後、大田大尉は、乾杯の音頭を取る筈が、言葉をそこで切って、杯を上げて飲み干してしまった。

 大田大尉の胸に、万感の思いが込み上げてしまったのだ。

 海軍兵学校卒業時に、海兵隊に最初から志願した面々で、今、生き残っているのは大田大尉だけだった。

 そして、世界大戦の間に、陸に海に空にと、余りにも多くの同期生が散って行ったのだ。

 世界大戦が終わり、平和が到来したとはいえ、来年には更なる別れが待っている。

 草鹿龍之介大尉等には、陸軍の隷下にある空軍への異動の内示が出ている。

 寂寥たる想いが、大田大尉の胸に広がった。

 同期生の面々も、大田大尉と同様なのだろう。

 皆、同様に溢れる想いに胸が塞がれ、つい、声を潜めて周囲と会話を暫く交わした。


 小一時間も過ぎた頃、襖を開けて3人の将官がいきなり入ってきた。

 3人共、目に涙を浮かべている。

 その3人を見た面々は、思わず立ち上がり、敬礼をしようとした。

「そのままにしてくれ。わしらは押しかけてきたのだから」

 最年長の将官が、同期会の面々に声を掛けたが、誰1人、すぐには敬礼を崩そうとしない。

 最年長の将官は、林忠崇元帥で、後の2人は山下源太郎大将と土方勇志少将だった。


「本当にあの卒業式の面々が、これほど減っていたとはな」

 林元帥は、皆に声を掛けた。

「わしの指揮がまずかったばかりに、済まないことをした」

 同期生の面々は、皆、思わず首を横に振った。

 確かに8割近くの同期生が散っている、しかし、林元帥以外が指揮官だったら、もっと死者が増えて、自分達は全員が散っていてもおかしくない。


「そういえば、あの時、わしに挑んできた草鹿龍之介は来ておるか」

 林元帥は、慈愛に満ちた声を上げた。

「はっ。ここにおります」

 草鹿大尉は声を張り上げた。

「世界大戦で日本一の撃墜王になるとは思いもよらなかったな。全部で63機撃墜だったか」

「はい。大西瀧治郎大尉のおかげです」

「そうか」

 林元帥と草鹿大尉は会話を交わした。


「あの卒業式の時、わしと剣道の試合をして生き残ったのは、草鹿大尉だけのようだな」

「そう言えば、確かに」

 草鹿大尉を始め、同期生たちは周囲を見渡し、あらためて思わず涙を浮かべた。

 あの剣道の試合の時にいた8人の内、生き残っているのは草鹿大尉だけだ。

 本当に、あの剣道の試合の時が、夢のように思える。

 同期生の面々は、かつての海軍兵学校の日々を改めて思い起こし、懐旧の想いに浸った。

 これで、第4部は完結です。

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