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エピローグー1

 エピローグ編の開始です。

 世界大戦終結を受けた閣議と日本国内の現況です。

 1918年11月11日午前11時に世界大戦が休戦を迎えた、との情報は速やかに日本に届いた。

「良かった、世界大戦が終に終わった」

 その情報を受けた人は皆、歓喜した。

 各新聞社から、号外が国内に大量に出され、それを読みふける人が続出した。

 何しろ、世界大戦に日本国民、皆が倦んでおり、更にインフルエンザによる大量の死者に、国民の多くが打ちのめされていたのだ。

 その憂色を一時とはいえ、この休戦の情報は国民の多くから吹き飛ばす効果があった。


 世界大戦が休戦を迎えたとの情報が届いたことから、寺内正毅内閣は早速、閣議を開いた。

「これで肩の荷が下りた。世界大戦終結を機に人心一新を図るという名目で、わしは内閣総辞職をしたい」

 寺内首相は閣議の席で、そう言った。


 寺内首相が元老の山県有朋との対立等から体調を崩しており、内閣総辞職の希望を漏らしていたのを内閣の面々は皆、知っていた。

 世界大戦勝利という結果を残したこの時点で内閣総辞職を表明する。

 世論も好意的な反応を示すだろう。

 内閣の面々は、これを機に内閣総辞職をするという寺内首相の決断を了承した。


「それにしても、インフルエンザはまだ収まらないのか」

 寺内首相は、言葉を更に続けた。

 幸いなことに閣僚に死者は出ていないが、国家、地方を問わず公務員にインフルエンザが蔓延しており、行政、司法に影響が出ている。

 衆議院議員も1割以上が、インフルエンザにり患しているとの情報が流れており、第41回帝国議会が無事に開けるのか、危ぶむ新聞があるくらいだった。


 水野錬太郎内相が報告した。

「先日、インフルエンザによる死者が東京で1000人を超えた、との情報もあります。打てる手は全て打っており、インフルエンザの患者が徐々に減少しつつあるとの情報も入っていますが、まだ、沈静化のめどは立ちません」

 仲小路廉農商務相も報告した。

「このインフルエンザの影響で、農作物の生産や商業等にも被害が出ています」

 閣僚は、皆、深刻な顔をした。


 最終的に、インフルエンザは年内に一時的に収まるものの、翌年、1919年の春から秋にも再流行があった。

 そのため、1920年を迎えるまでに日本国内のインフルエンザの死者は、最大で100万と推計される大被害が出たのである。

 市民生活に与えた影響も深刻で、物資、特に医薬品が不足し、一部では医薬品等を寄越せ、という声が高まり過ぎて、市民集会が変質して暴動寸前に至った例まであるくらいだった。

 だが、それも無理がないといえる。

 とある全国紙の新聞の狂歌欄に

「今日もまた、火葬の煙、絶えざりし、野焼きの場には、人影絶えず」

 という狂歌が載る有様だったのだから。


「そして、陸海軍共に大量の死傷者を出しました。日露戦争とほぼ同等と見なしてもいい程です」

 加藤友三郎海相が沈痛な表情を浮かべて、言葉をさらに紡いだ。

 世界大戦の日本軍の戦死者(病死者も含む)は、統計により微妙な差はあるが、通説では6万人以上7万人未満(その内のインフルエンザによる病死者は1万人を超す)とされている。

 死傷者は全部で延べ約20万人以上(二重、三重に死傷した場合は、別に数えるために、純粋な死傷者の人数は20万人をぎりぎり切るというのが、通説ではある)に達した。

 その言葉を聞いた閣僚の面々の表情は更に沈痛なものになり、涙をこぼす者もいた。

 その中には寺内首相もいた。


 涙を拭きながら、寺内首相は言った。

「ともかく世界大戦は終わったのだ。それを我々は寿ごう。そして、今、欧州にいる陸海軍の軍人が早く、祖国日本の土が踏めるように尽力しよう。祖国日本で桜の花見を欧州にいる陸海軍の軍人にさせてやろう」

 閣僚の面々全員が肯いた。

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