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第5章ー43

「わしは退位はしない。軍によって、レーテ(ソヴィエト)を叩き潰し、何れは帝政を復興させる」

 ベルリンで共和制が樹立されたという第一報を11月9日の夕刻にスパで受けた直後、ヴィルヘルム2世はそう叫んだが、最早、軍にも帝政は見限られようとしていた。


 ヴィルヘルム2世が臨席する会議が、同日の朝からスパでは開かれていた。

 参謀次長グレーナーは、戦況の最新情報を説明し、国内の混乱状況も併せて伝えた後、前線の部隊を国内に輸送し、革命の弾圧を行うことは困難であり、軍の帝政に対する忠誠は空しい理念と化したとその会議の席で報告した。

 その言葉には、ヒンデンブルク参謀総長も同意した。

 更に西部戦線で前線を担っている将官39名は、軍が革命の弾圧を行うことは不可能であると上奏していた。

 そこに、ベルリンで共和制樹立の宣言がなされたとの報告が飛び込んできたのである。


 ヴィルヘルム2世は、ヒンデンブルク参謀総長とグレーナー参謀次長にあらためて、革命弾圧と帝政の復興をあらためて命じたが、2人共拒否した。

 ヒンデンブルク参謀総長は、中立国オランダへ亡命するしかない、と言葉を尽くしてヴィルヘルム2世に亡命を勧めた。

「最早、兵士の反乱が起きた場合、私には迎えられません」

 ヒンデンブルク参謀総長は、そこまで言ったと伝えられる。


 11月10午前2時、急きょ仕立てられた特別列車に多額の王室財産を積み込み、ヴィルヘルム2世はオランダへとスパから出発した。

 そして、このことがドイツの帝政を完全に断つことになった。

 ヴィルヘルム2世が、多額の財産を持って中立国に亡命したことが、ドイツ国民の世論を急速に悪化させてしまい、君主制を全面的に支持していた保守系政党の議員らまでが共和制樹立に賛成に回る事態を引き起こしたからである。


 話が前後するが、11月6日にエルツベルガー無任所相を首班とする交渉団がベルリンを出発していた。

 交渉団は絶望的な戦況と国内状況から、独を救おうとしていたが、圧倒的な優位にある連合国側は冷淡極まりない態度で、8日に彼らを迎えた。

「こちらからあなた方に申し上げることはありませんが」

 連合国側から交渉団に発せられた第一声は、上記のように伝えられている。

 72時間以内に、連合国側は交渉団に一方的な休戦要求を全面的に受諾するか否かを求めた。


 その72時間の間にも、独の国内情勢は前述したように目まぐるしく変化していった。

 11月10日、ヴィルヘルム2世の国外逃亡を受けて、ヒンデンブルク参謀総長とグルーナー参謀次長のコンビは、エーベルト首相による独共和国の新体制を軍は支持することを表明すると共に、交渉団に対して一刻も早く連合国の休戦要求を全面受諾することを求めた。

 軍の主流派としては、これ以上、独国内の革命が過激化して共産主義革命となり、独がいわゆる赤く染まる事態を懸念していたのである。

 事ここに至っては、交渉団に連合国の休戦要求を全面受諾する以外の選択肢があるわけがなかった。


 11月11日午前5時過ぎ、ドイツの交渉団は、コンピエーニュにて休戦要求を全面受諾するという文書に署名した。

 それにより、同日午前11時を期して、独と連合国軍の間で休戦が発行することが定められた。

 この時刻については言うまでもなく、わざと連合国が記念すべき日時になるようにしたのである。

 この瞬間、世界大戦は事実上終結を迎えた。


 だが、休戦協定が結ばれても独軍と連合国軍の戦いは続いた。

 なぜなら、独軍も連合国軍も休戦が破られて戦争が再開される場合が起こったら、と考えて戦闘を中止しようとしなかったからである。

 そのために11月11日の間、犠牲者はお互いに出た。

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