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第5章ー41

 ともかく、10月3日の時点では、ルーデンドルフは戦況の実態を把握しきれていなかった、と評されても仕方ない状態だった。

 前述したように、一時的な休戦、停戦を英仏米日等と締結して、その後で、軍を再編制する、そして、来春に再攻勢を行い、最終的な勝利を収めるという考えを未だにルーデンドルフは、その頃は持っていた。

 この頃のルーデンドルフに言わせれば、このような事態を招いたのは、文民政府の不手際によるものであり、もしも、世界大戦勃発前から参謀本部が政府を握っていれば、このような事態は避けられた。

 だが、今となっては、文民政府が独がこのような状況に陥った全責任を取り、軍を温存して軍部独裁体制を築き、その上で軍を再編制するのが、独にとって最良の方法であるとルーデンドルフは説いていていたのである。

 しかし、米のウィルソン大統領以下、米英仏日等の連合国はルーデンドルフの妄想に付き合うつもりは全く無かった。


 10月3日の交渉申し入れから、徐々に独に対して講和条件は厳しくなる一方だった。

 10月17日に連合国が独に対して突きつけた要求は、独の政治制度改革を要求するものだった。

 10月23日には連合国は独に対して更に事実上の無条件降伏を要求するものにまでなった。

 こと、ここに至ってルーデンドルフは講和に対する態度を180度、転換することになった。

 このまま講和交渉をしていては、独が軍を温存できなくなることは自明の事柄だったからである。

 ルーデンドルフは講和断固反対を唱え出した。

 しかし、周囲がルーデンドルフの思惑を突き崩していった。


 まず、独宰相マクシミリアンが辞職をほのめかした。

 これはルーデンドルフにしてみれば飼い犬に手をかまれたようなものだった。

 なぜならマクシミリアンが独宰相になれたのは、ルーデンドルフの推挙があったからだからだ。

 しかし、マクシミリアンの方が現実が見えていた。

 最早、独が講和を一刻も早く受け入れないと最悪の場合、ロシアと同様に組織化された労働者による赤色革命騒動が起こりかねない、そうなると独という国家自体が消滅するとマクシミリアンは判断していたのである。

 このマクシミリアンの動きに、ヴィルヘルム2世らも同調し、ヒンデンブルク参謀総長もルーデンドルフを見捨てた。

 10月26日、ルーデンドルフは参謀次長を辞職する羽目になり、グルーナーが後任に任命された。

 翌日、付け髭と伊達メガネという変装をしてルーデンドルフは中立国であるスウェーデンに亡命していった。

 そして、連合国は更に独に苛酷な要求を突き付けた。


 11月6日に連合国が独に突き付けた要求は次のようなものだった。

「休戦条件の詳細については連合国側がそれを保障かつ強制する無制限の権力を有する」

 独に対して連合国が交渉を行う余地はない、と宣言したようなものだった。


 ここまで、連合国が強気になったのは、戦況が完全に連合国優位になったのが大きかった。

 林忠崇元帥率いるベルギー解放軍の先鋒を務める日本第1海兵師団の将兵はブリュッセル市街を視野に収めるようになっており、11月半ばにはブリュッセルでベルギー国王の入城式ができるとみられていた。

 また、英仏米日統合軍の攻勢により、仏国内からほぼ完全に独軍は追い出されており、パーシング将軍は米軍によるライン川渡河一番乗りを11月10日は実施しようと本格的に計画していた。

 英仏米日航空隊もルール工業地帯等への戦略爆撃計画を本格的に立案していた。

 仮に、いわゆる「背後からの一刺し」が無くても、独はどうにもならない状況になっていた。


 だが、「背後からの一刺し」が独に起きてしまい、世界大戦は終わるのである。

 

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