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第5章-39

 独軍、民間へのインフルエンザの蔓延の本格化、ブルガリアの崩壊、残る同盟国の独墺土も相次ぐ戦況の悪化に政府首脳から庶民まで、いよいよこの戦争が我々の敗北で終わる時が近いとの思いを抱くようになっていた。

 実際、サロニカ戦線が崩壊し、ブルガリアが講和した後のバルカン戦線の動きは急だった。

 墺国内で急速に民族運動が活発化、サロニカで戦っていたセルビア軍は首都ベオグラードへ帰還しようと民族運動を活発に行っている指導者たちと連携を行い、急速に進撃を開始していた。

 また、アドリアノープルからトルコの首都コンスタンチノープルを英仏軍は目指しており、パレスチナ中東戦線に兵を割いていたトルコ軍の残存兵力では、これを阻止することは極めて困難な状況になっていた。

 そして、パレスチナ、中東戦線でも10月1日にアラブ民族主義者と英軍の連合勢力はダマスカスを占領しており、無人の野を行く勢いでアレッポを目指そうとしていた。

 このような状況から、トルコは10月中には降伏せざるを得ないという見方が急速に広まっていた。

 更に墺には別の一撃が加えられようとしていた。


「このまま講和に至っては、祖国は敗北に塗れたままになってしまう。少しでも「未回収のイタリア」を回収した上で講和に至らねば」

 伊軍総司令官のディアツ将軍は決断し、イタリア戦線でも大攻勢を取ることを決断した。

 幸いなことに6月の墺軍の攻勢をはね返したことで、伊軍の士気はカポレットの大敗直後から比べるとかなり改善されていた。

 こういった状況から、デウィアツ将軍は大攻勢を決断したのである。

 だが、伊軍のこの動きだけで墺軍の内部には動揺が走った。

 サロニカ戦線の崩壊に伴い、バルカン半島全体へと連合軍の攻勢は及ぼうとする勢いを示していた。

 こうした中でイタリア戦線でも攻勢が取られたら、我々はおしまいだ、墺に自分達は殉じたくはないと王国内のドイツ民族以外の民族主義者、具体的に言うとチェコ、クロアチア更にはハンガリーまでが、活発に活動を始めたのである。

 こうなっては、墺軍の戦力が大幅に低下するのは止むを得なかった。


 話が先走り過ぎてしまうが、準備にいろいろと手間取ったこともあり、10月24日から伊軍は大攻勢を開始した。

 そして、当初は陣地群によることで何とか墺軍は抗戦できていたものの、10月30日に伊軍が陣地群を何か所か抜くことに成功したことで、墺軍は急速に崩壊、墺政府はこれ以上の戦争継続を断念し、11月3日に伊政府と停戦協定を締結し、戦争から脱落することになるのである(なお、実際に停戦が発効したのは11月4日のため、資料によっては11月4日に停戦したと書かれている。)。


 その少し前、トルコもアレッポとアドリアノープルに英等の連合軍が迫り、陥落が時間の問題となったことから、10月30日に休戦協定の締結止む無しに至った。

 こういった10月の激動の中、独は連合国との和平交渉を行うことになったのである。


 そして、それは困難を極めることになった。

 10月5日、まずベルギー解放軍の攻勢の前に独軍の西部戦線の最北部は崩壊状態となってしまった。

 林忠崇元帥が、英仏米日統合軍司令部に当てた報告書に、次のように書いた。

「補給さえいただけるならば、どこまででも我々は前進可能であり、10月中にブラッセルでベルギー国王が入城式が行えることを確約できます」

 その翌日には、米軍のパーシング将軍も仏東方軍集団の大攻勢を成功させ、西部戦線の最南部を崩壊させた。

 そして、誇らしげにパーシング将軍は報告書に書いた。

「セダンに仏軍が今月中に入場し、普仏戦争の無念を払拭できるでしょう」

 独軍は北と南から崩壊しつつあった。 

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