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第5章ー38

 10月に入ってから、独の軍隊、民間に急速にインフルエンザは蔓延するようになった。

 独では長い戦争と英仏等の封鎖により物資が欠乏している。

 そんな中にインフルエンザが蔓延するようになったら、その結果が英仏米日等よりも酷くなるのは、独の皇帝から国民に至るまで半ば自明のことだった。


「食糧を始め、弾薬から修理部品まで何から何まで到着が良くて更に遅れるようになりました。下手をすると届きません。司令官からも何とかするように働きかけていただけないでしょうか」

 10月上旬のある日、マンシュタイン大尉は上官のフティエア将軍に訴えていた。

「大尉の気持ちは分かる。だが、言っても無駄だろうな。補給部隊どころか、前線の部隊まで我が軍の将兵はインフルエンザにやられつつある。そして、英仏米日の航空隊は、射的の的と我が軍の部隊を想っているのだろう、最早、夜間に我々は動かないと航空攻撃の嵐から免れることはできない。もっとも」

 フティエア将軍は皮肉気な表情を更に浮かべて、話を続けた。

「夜間と言えど、空襲を掛けてくる航空部隊もあるがな。そして、民間でもインフルエンザが蔓延している以上、工場へ物資は運び込まれないし、何とか運び込まれても工員がインフルエンザで倒れている。やっとの思いで生産しても、戦場へ輸送しようとしたら、輸送部隊の隊員が倒れているという有様だ。正直に言って、自分もどうすればいいのか、頭を抱え込まざるを得ない有様だ」

 マンシュタイン大尉は思った、確かに将軍の言うとおりだ、我が独は坂道を転げ落ちるようにインフルエンザの蔓延にやられ、更に英仏米日の航空隊に追い打ちを掛けられつつある。

「我が独は総力を挙げて、抵抗を続けている。例えば、戦闘機隊は、10倍以上の英仏米日の航空隊に進んで殴り込みをかける有様だ。結果は悲しいものだがな」

 将軍の話は続いていた。

 マンシュタイン大尉も思った、独は総力を挙げて抵抗している、だが、これは断末魔の苦しみを長引かせているだけなのかもしれない。


「草鹿、今日は何機落とした」

 それと同じ日、吉良俊一中尉は、草鹿龍之介中尉に尋ねていた。

「1機、落としましたよ。どうも未熟な奴でしたね。新型DH4が一撃離脱に徹しているのに立ち向かおうとは。こちらは有り難かったですが」

 草鹿中尉は言った。

「そうか、こちらは1機も落とせなかった。戦闘機からは逃げて、爆撃機を相手は狙おうとしているようだな。向こうにとっては当たり前だが」

 吉良中尉は肩を落とした。

 今日、2人は独軍の後方を叩こうと戦爆連合192機の部隊の一員として出撃していた。

 その帰り道の途中で独軍の戦闘機15,6機と遭遇。

 彼らは勇敢だったが、技量がそれに伴っていなかった。

 一方の日本軍の搭乗員は全員が最低でも600時間、半数以上が1000時間以上の飛行時間を誇るベテラン揃いだった。

 日本軍の搭乗員達は全部で未確認を含めると20機撃墜と報告、さすがに襲撃してきた戦闘機よりも多いので、未確認は司令部により一切認めないということになったが、それでも12機が撃墜確実とされた。

 一方、日本軍の損害は0だった。

 爆撃機と言えど、爆弾が無ければ戦闘機として戦える新型DH4に正面から挑むとは、独軍の搭乗員の技量、経験はかなり低下しているとみてよかった。

「そして、自分達の独軍の後方襲撃任務は無事に成功か。おそらく彼らは、我々を迎撃しようとしたものの間に合わずにせめて一太刀の思いで、我々に襲い掛かってきたのだろうな。全員が我々に返り討ちにされたようだが」

 吉良中尉は半ば独り言を言った。

「哀しい戦いでしたね」

 草鹿中尉も呟いた。 

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