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92 ミィちゃんの社会科見学2

「ええっと……ここは?」


 ミィは困惑気味にあたりをキョロキョロ。


 俺が彼女を連れて来たのはゲンクリーフン郊外にある荒地。

 周囲にはこんもりと盛られた土があちこちに。盛り土の上には草が生えており、上でお昼寝したら気持ちよさそう。


「ここは白兎族の集落だよ」

「え? ここが?」

「そうだ。あの土の盛り上がりは白兎族の家なんだ。

 ほら、植木や家庭菜園なんかもあるだろ?」

「あっ、ほんとだ」


 盛り土にはそれぞれドアがついており、中へ入れるようになっている。ぱっと見てただの盛り土でしかないのだが、白兎族からしたら立派な住居だ。


 集落には家庭菜園があって、そこでニンジンなどの野菜を育てている。適当に買い取った三等地であるここの土は農業向きではなく、彼らは頑張って土壌を改善して作物が育つようにした。


 生前は農業にも従事したことがあるので、その大変さはよく分かっているつもりだ。こんな荒れ地の土壌を改善する苦労は並大抵のことではない。


「あの……どうしてここへ連れて来たの?

 小説の取材じゃなかったの?」

「いい機会だから社会科見学も兼ねているんだ。

 白兎族がどんな暮らしをしているのか、

 一緒に見て回ろうじゃないか」

「ううん……」


 ミィは微妙な顔つきになる。


 確かに人の家を見学するなんて、楽しいイベントではない。期待していたのとは違ったんだろうなぁ。


「そんな顔しないでついてこい。家の中へ入ったら驚くぞ」

「うん……分かった」


 微妙なテンションのまま俺についてくるミィ。中へ入ればまた違ったリアクションをすると思う……多分。


「あっ! ユージさまだ!」

「ユージさまぁ! いらっしゃぁい!」


 白兎族の者たちが挨拶をしてくれた。俺は軽く手を振ってこたえる。彼らは頭の上で元気よく手をぶんぶんと振って返してくれた。


「ふぅん……白兎族って見た目はみんな男の子なんだね」

「ああ、かわいいだろ?」

「まぁ……かわいいと思うけどさぁ」


 白兎族は美形が多く、みーんな美少年。髪の毛が揃って白く、美形かつ幼い容姿だと見分けがつきにくいが、長く付き合っていると個体ごとに特徴があるのが分かる。


 元気で行動的な者、大人しくて控えめな者、社交的な者、人付き合いの苦手な者。

 彼らの性格は千差万別。見た目が似通っているかと言って、没個性では決してない。


 ただ……白兎族には共通する特徴がある。

 それは性欲がとても強いということ。


 彼らには発情期がなく、年がら年中子作りが可能。そこは人間と一緒。


 白兎族には雌雄の区別がないので、互いに相手を妊娠させてしまう可能性もある。つがいを作った彼らはそれぞれオス役とメス役を決めなければならないのだが、その方法がまた……。


「おーい! フェルはいるかぁ?」

「はーい!」


 俺がノックして呼びかけとすぐに返事が来て扉が開いた。


「ユージさま? 何か用事ですか?

 わざわざ家まで来てくれるなんて……」

「悪いがちょっと家の中を見せてもらえるか?

 ミィに見学させたいんだ」

「え? 別に構わないですけど……」


 一瞬、困った表情を浮かべたフェルだが、彼は俺たちを中へと入れてくれた。


 彼の部屋は非常に狭く、あまり身長が高くないミィでも屈まないと頭がぶつけてしまう。家の中には立派な柱とはりがあり、天井と壁をしっかりと支えている。適当に作ったような外観をしているものの、内部はきちんとしているのだ。


「へぇ……立派なおうちなんだね」


 物珍しそうに部屋を見渡すミィ。


 フェルの部屋には小さなベッドと小さなテーブルが一つずつ。子供用の小さな椅子が三つ。棚には白い陶磁器の食器が整然と並べられている。仕事机の上には書類の束や分厚い本がうずたかく積まれていた。

 必要最低限の物しか置いてないように見えるが、俺の部屋と比べたらずっと充実している。


「なぁ……フェル。地下を見せてもらってもいいか?」

「え? 別にいいですけど……。

 何も面白いものなんてありませんよ」


 彼はそう言って机をどかす。

 そこには床下収納のような小さな扉があった。


「えっと……まさか……」

「そのまさかだ。ここから地下へ通じている。

 中を見たらきっと驚くぞ」

「へぇ……」


 興味深く扉を見つめるミィ。

 白兎族の住居は見た目以上に大きいのだ。

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