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成仏できなかった妻の幽霊が僕に再婚を勧めてきます  作者: 鹿ノ倉いるか


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妻同伴の婚活パーティー

 休日のシティホテルは若い家族や外国人観光客で賑わっていた。

僕は喫茶店のテラス席に座り、行き交う人を緊張しながら観察していた。


「ちょっと宗大。緊張しすぎだよ。もっとリラックスして」


 紗耶香はお気楽に笑いながら僕の隣を浮遊している。どうやら紗耶香の姿は他の人には見えないらしく、誰もその姿に驚いた様子はない。


「別にお見合いをしに来たわけじゃないんだから。ただの街コンだよ。いい人がいたらラッキーくらいに構えておけばいいの」


 そうは言ってもそれほど社交的でもない僕にとって婚活パーティーなんてハードルが高すぎる。安請け合いしてしまったことを今さら後悔していた。

 再婚のために努力するなんて言ってしまったものだから無理やり婚活パーティーにエントリーをさせられたのは一昨日のことだ。

すっかり忘れてしまっていたが、紗耶香は僕と違って行動派だった。


「それに今日の街コンはバツイチ&バツイチ理解者限定だから大丈夫だよ」


 なにがどう大丈夫なのか問うてみたいが、他人に見えない霊体に話しかけるわけもいかず、黙ってアイスコーヒーをストローで啜る。

もはや氷しか残っていないカップからはズズズという音が響く。


 ちなみに今日のパーティーは『バツイチさん集まれ!』という、号令をかけられても集合しづらいネーミングのものだった。

 しかしバツイチ子持ちに理解のある集まりなのに何故か子連れ参加は認められていないので、仕方なく休日出勤だと嘘をついて璃玖は妹の()(はる)に預けてきた。


「さあ、そろそろ始まるよ。会場に行こう!」


 やる気満々の紗耶香はふわふわと浮きながら会場へと向かう。

 一人で行くと言ったのに紗耶香はついてきた。「募集要項に『元嫁同伴不可』とは書かれてない」などとモンスターカスタマー並みの言いがかりをつけて。

 僕ひとりで行かせたら、行った振りをして時間を潰して帰ってくるということはお見通しだったのだろう。

 いくら霊体とはいえ嫁付き添いで婚活パーティーに参加するなんて、僕が世界初じゃないだろうか。


 会場はシティーホテルにあるカジュアルなレストランだった。

もちろん一般客はいない貸し切り状態で、僕が到着した時にはほぼ全員が集まっていた。店内に入ると参加者たちの視線が一気に僕に集まる。


 女性が窓側の席に並んで座り、男性は通路側の席に着くらしい。

 席に置かれていた自己アピール用紙に目を通しながら番号札を胸元にピン留めする。

今から約二時間、僕は男性25番さんだ。


「25だって。私の誕生日と一緒だね。ラッキーナンバーなんじゃない?」


 再婚を目指すパーティーで元嫁の誕生日がラッキーナンバーになるのかは微妙だが、沙耶香が楽しそうにしているのはちょっと嬉しかった。

霊として現れてからは沈んだ様子のことが多かった。たまにはこうして一緒に出掛けると気分も晴れるのだろう。


 自己アピール表には趣味や特技の他に、子供の有無などを記載する欄もあった。バツイチを対象にしたパーティーならではなのだろう。

右下にコソッと年収も記載する欄がある。一応『任意』と書かれているが、個人情報にうるさいこのご時世にずいぶんと大胆な質問だ。


 慌て気味に空欄を埋めていたら、流れや注意事項などをちゃんと理解出来ないうちにパーティーが開始されてしまった。

 目の前に座った女性と自己アピール表を交換して一分間話をし、司会者の合図で男性が時計回りに席を一つ移動する。

その繰り返しですべての女性参加者と話をするというシステムだ。


 やる気はないものの、参加する以上は真面目にやらなくては相手にも失礼だ。

 良くも悪くもそんな生真面目な性格の僕は、一人ひとりの女性をしっかりと記憶しようとした。しかし十人目を過ぎた頃からその気力も途絶えてしまう。


 何しろこんな短時間で二十人以上の人と会話をしなくてはならないのだ。覚えきれるはずがない。

 自己アピール表を相手の女性に渡すとみんなさり気なく、中には受け取った瞬間露骨に、右下の欄に視線を滑らせる。やはり再婚を考えるなら経済状況というものも大切なのだろう。

 しかし綺麗事を言うつもりはないが、そういう判断基準で結婚相手を選ぶというのは少し薄ら寒いものを感じてしまう。


 移動しっぱなしなので文字通り腰の落ち着く暇もなく、一巡トークが終わった。

 ここで第一印象カードを提出するらしい。全員と話してみて、気になる人を番号で記入しなければならない。

これだけの人数とあんな僅かな時間話しただけで何が分かるというのだろう? 外見と年収だろうか?


「いい人は見つかった?」


 トーク中は大人しくしていた沙耶香がふわふわーっと僕の前にやって来る。

 僕は無言で軽く首を横に振って答える。

 バツイチ限定だからか女性参加者は僕より年上が多く、三十代後半が一番多い印象だ。

参加レギュレーションは三十七歳までだったから、そのギリギリでエントリーする人が多いのだろう。レスリングの58キロ級に55キロの人が参加しないのと同じだ。

ただ四十代の女性も何人か見掛けた。あれは減量失敗した選手みたいなものと捉えておけばよいのだろうか?


 いずれにせよ年下で、しかも頼りなさそうで、その上給料もさして多くない僕など、女性陣からみればあり得ないに違いない。

 第一印象カードは白紙で提出した。集計をしている間に軽食とドリンクが運ばれ、フリートーク時間となった。

簡単なサンドイッチやケーキだが空腹だった僕にはありがたい。


「なに真面目に食べてるのよ。話しにいかなきゃ! ほら、あの人なんて感じよさそうじゃない? 子供好きそうだったし」


 玉子サンドを齧りながら沙耶香のいう女性を見る。

確か僕より四つほど年上の人だ。結婚相手に外見を強く求める訳ではないけれど、美人で若々しい沙耶香と比べると、どうも尻ごみしてしまう。

偉そうなことを言っておきながら、結局僕も結婚相手に過剰で邪なものを求めてしまっていた。


 僕以外に食事に勤しむ人はおらず、みんな男女で集まって歓談をしている。再婚に前向きで来ているのだから当たり前だが、その熱意に圧倒されてしまう。

 一番人集りが出来ているのは若くて美人な女性6番さんの周りだ。6番さんを囲むように三人の男が座っている。

テーブルには彼女への供物のようにケーキが並んでいた。あんな綺麗な人も参加しているのかと失礼なことを思った。


 そんなことを考えながら眺めていると、視線に気付いたのか6番さんが僕の方に視線を向けた。

目が合った瞬間、彼女はニコッと笑いかけてくる。慌てて目を逸らすと、今度は物言いたげな目をした沙耶香と視線が合ってしまった。


「へぇ。やっぱああいうのが好きなんだ?」


 散々再婚を勧めてくるくせにちょっと非難がましい。身勝手な奴だ。

聞こえなかった振りをして僕はアメリカのコメディドラマによくいるデブキャラのようにツナサンドを頬張っていた。

 そこに主催者側の人がやって来て僕に紙片を渡してくる。


「これは?」

「第一印象カードの結果です。女性の方から男性25番さんに好印象を持たれた方の番号が書かれてます」


 そんな人いるのだろうか? 

訝しげに紙を開くと『6』とだけ記載されていた。

 驚いて振り返ると僕と目が合った女性6番さんが恥ずかしそうに会釈をしてきた。


読んでいただき、ありがとうございます!

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