第十一話「偽りの決着―③」
「……これは、どういうこと?」
イリーナは、不思議そうにその場を見つめていた。
確かに弾丸はこの方向から飛んできた。……だが、そこには人どころか獣一匹通った気配がない。
「これ以上先はスナイパーライフルでも狙撃は不可能……いや、それどころか木々に阻まれてる。ここから狙撃なんて……人間にできることなの?」
あるいは、翼人のような翼のある種族が、上空から狙撃した可能性を模索した。だが、それを否定する証拠が、イリーナのすぐそばの木に残されていた。
銃弾が、木をかすめた痕跡である。
「……やっぱり間違いない。これは、現代魔術……現実世界における、デバイス式術式……つまり、私達四勇者の中に犯人がいる……」
真っ先に疑うべきは、やはりカイル=グリードである。……だが、彼は魔法が使えない。
イリーナには、それを証明するだけの根拠があった。
「……だけど、もしそれが真実なら……可能性があるとすれば…………」
「おい。何をブツブツ言っているんだ?」
イリーナが振り返ると、ヴァンが木にもたれかかり、不服そうな顔を浮かべていた。
「あら。考え事をしていただけよ」
「……テメェ、何か知ってるんだろ?」
「……今回の狙撃犯。確実に転生者のうちの一人よ。この答えで満足かしら?」
イリーナはもったいつけることもなく、あっさりと答えた。
「カイルか?」
「彼には不可能……なはずよ。彼は魔法が使えない」
「……って事は」
イリーナは深く頷き。考えうる最大の可能性を口にした。
「……再び私達の世界から、勇者が召喚された。……そう考える方が無難ね」
*** 同刻 首都・ゴッデス 参謀室 ***
「ねぇねぇ。こんなに簡単でいいのかな?」
「ねぇねぇ。こんなに簡単でもいいんだよね?」
かわいらしい少女が二人、首をかしげながら転がる死体を見つめる。
「でもでも。これで殺し合いが起きるよ」
「でもでも。いつ殺し合いができるのかな?」
一人の少女は右目が赤く、左目が青い。オレンジの髪を右側に束ねたサイドテール。見た目は10にも満たないほど幼い。
「やぁやぁ。すごく楽しみだね」
「やぁやぁ。とても楽しみだね」
もう一人の少女は右目が青く、左目が赤い。オレンジの髪を左側に束ねたサイドテール。見た目は10にも満たないほど幼い。
まるで双子のような少女。仲睦まじいほど……だが、三日月のような不気味な笑みで……元勇者カイル=グリードの遺体を、ただただ見下ろしていた。
……そして、その少女の一人は黒の首枷をつけていた。
*** *** ***
「……本当によかったのか?」
「オレは負けたからな。それに、にーちゃんたちについた方が楽しそうや」
なんの後悔もなさそうに答えるが、その表情には若干の戸惑いが見える。……だが、あっさりとジークヴェルトを裏切ったところを見ると、やはり奴隷制度については思うところがあったようだ。
「でもさ……一緒にいた竜人族の子はジークヴェルトに戻っちゃったし」
「ん? ……ああ、ライちゃんか」
リーは思ったより、ライネルがジークヴェルトについたことは気にしてない様子だ。
「……スパイか」
「え?」
「へへっ」
……そう。ライネルはわざとジークヴェルトについたのだ。情報をレヴォルにリークするために。
「ただ、アスカのねーちゃんは気付いているっぽかったけどなぁ……ま、アスカねーちゃんも奴隷反対派やから大丈夫やろ」
……だが、スパイと言っても完全にこちら側についたとは言い難い。それはおそらくリーも一緒。二人とも基本的に戦争反対を掲げているのは確実だ。どちらかと言えばジークヴェルト奴隷反対派勢力の一人と考えた方がいいだろう。
むしろ、リーは奴隷反対派勢力のスパイと考えた方が自然だ。……逆を言えば、レオンハルトにとって都合のいい状況が整ったと言えるだろう。
これで、影での協力体制が整ったと言えるわけだ。
なんにしても、この状況は最終的にレオンハルトの都合のいいようになってしまった。偶然……というわけではないだろう。
「……どちらにしても、レオンハルトに一杯食わされたというわけか」
「……って事だろうね。この状況は」
だが……だとしたらアスカを暗殺しようとした勢力は、やはり奴隷推進派ということだろうか?
……おそらく、それはありえない。こんなことしなくても、圧倒的戦力差があるのだから、わざわざ戦争を煽る行動をとる必要がない。
「……現時点で一番可能性が高いのは、やはりカイル=グリードか」
――――カイル=グリード暗殺の報は、その後すぐにジークヴェルト全体に電撃的な速度で伝わったのだった……。




