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第十一話「偽りの決着―②」

「……まさか、サングエアルマの血の刃を、一瞬の判断で引っ込めるとはね」

「以前ガイウスから教えてもらったダミーナイフの原理だ……案外役立つもんだな」

「にしても、ハンマーで思いっきり頭蓋ぶっ叩かれたようなもんでしょ? ……アスカさん、よく生きてるわね」

「加減はした。かるい脳震盪程度だろう」

 ……ダミーナイフ。プラスチックという人口素材を利用して作られたナイフ部分を、ばねで柄のほうへ引っ込めて、あたかもナイフが刺さったかと思わせるおもちゃ。ヴァンはそれと同じことをした。

「俺との戦いですでに……アスカは気づいたはずだ。こちらの狙いが殺すことではないことに」

 ヴァンが、相手の命を奪わないように戦っていたのは、あれだけ戦えばアスカにはわかる。逆に言えば、相手の手は読みやすい。相手の命を奪うような手は使えないわけだから、選択肢が減る。

「それで油断した明日香は、槍の一撃が上段から叩き込まれると思い、間合いを見誤った……っと」

 サングエアルマの大鎌形態(ファルチェモード)は、本体の部分が刃の方へ伸びる。それは刃を引っ込めればちょっとしたハンマーのような形となる。刀の防御をすり抜け、強打を与えることができる。ついでに濃度を上げれば重量を変換することも可能。

「なるほど……サングエアルマは、クレアの血で満たせば強度は出るんだからハンマーのように使うこともできるわけだ」

「発想がおもちゃってのは、ちょっと不服だがな」

 そう言いながら、もう一度変形させて大鎌形態(ファルチェモード)にしてみる。




 ――――変形魔術武装、サングエアルマ。ヴァン自身の血を使った攻撃を生かしつつ、その弱点を克服するために作られた武装。

 血の刃は、どうやっても強度不足になる。鉄分を増殖させ、通常の血の塊よりは、はるかに強度があるものの、いくらなんでも限界がある。

 さらには、質量……というより重量がない。

 どちらも今まではヴァンの腕力や、剣才でカバーしていたが、相手が達人の場合は、その弱点が露骨にでてしまう。サングエアルマは、強度をカバーするハードアーマーであり、様々な武器に変化する自由度の高い戦略性を損なわないマルチスタイルウェポン。基本形態である杖形態(バストゥーネモード)。最低限の血液で動作し、クレアを出現させても同時併用可能な槍形態(ランチャーモード)。最も殺傷能力が高く、切り札となる大鎌形態(ファルチェモード)。さっきの即席で使ったハンマーモードを含めると、さらなる可能性を秘めている。




 槍、杖と変形させていくと、ヴァンの右腕から赤い煙が漏れ出し、その中からクレアが姿を現す。

「しかも、本体自体は空洞だから収納モード兼任の杖のスタイルは、めちゃくちゃ軽いんだよねー」

「でも、ヴァンのにーちゃん以外が使うとただのボロ杖か……むっちゃ、かっけーやん‼」

「なるほど、してやられたわ。……いい武器ね」

 いつの間にか、アスカがイリーナに介抱されながら身を起こしいていた。

「……お前に言いたいことは一つ。わかってるな?」

「その言葉。そっくりそのままお返しするわ」

 アスカの即答に、ヴァン以外の人間は言葉の意図が読めずに戸惑った。

 ……ヴァンはレヴォルにアスカを誘おうとしたのだが、それを一蹴したのだ。

「……やはり、レオンは裏切れないか」

「当たり前でしょ。革命は、確かに私達の求める奴隷制度撤廃に一番近い方法なのかもしれない。……だけどレオンの言う通り、戦争以外の方法を探すことも大事だと私は思う……だから、あなた達には協力できない」

 剣を交わした者同士にしかわからない、意志疎通がそこにはあった。ヴァンはそっと目を閉じ、少し残念そうに「そうか……」とだけ答えた。

「ねぇ……もう少し待てないの? 私とレオンはすでに、奴隷制度反対派の勢力は作っている。せめてそれが拡大するまでは……」

 ジークヴェルト王国は、軍事国家であり、騎士団が政治を担っている。ゆえに通常の貴族制度は存在しない。言ってしまえば、騎士団が一つの貴族ということだ。

 そして、レオンは奴隷制度撤廃を求めるために、水面下で協力者を募っていた。騎士団長という立場を生かして、その勢力は着実に大きくなっていた。

 それはヴァンも知っていた。――――だが。

「俺は……その間に奴隷が死んでいるところを何度も見てきた。待つなんて出来ねぇよ」

 ヴァンとアスカの間に、フランが割って入る。

「私は、このベルンブルグの奴隷だった。私もつらかったけど、それ以上に何人も……苦しむ人の姿を見た。拷問されているところを見たこともあった。お偉い貴族様は知らないかもしれないけど、私達は今日を生きることすら難しいの。……奴隷撤廃を謳うなら、待ってなんて言ってる時点で……もう遅いのよ」


 持つものは持たざる者の苦しみを知らない。「あと少しだけ耐えて」ということは「あと数日……数ヵ月、毒の沼を泳いで」と言っているようなものだ。その苦しみは……持たざる者しか知りえない。


「……あなた、名前は?」

「フラン……フランツェスカ=ヒルデブランド」

 その名前を刻み込み。アスカは立ちあがる。

「――――私の気持ちは、やっぱり変えられない。レオンを裏切れない。……だからフランツェスカ。あなたの気持ちは、レオンに伝える。……私には、これくらいしかできないから」

 アスカはニコリと笑い、フランの言葉に答えた。……これからも敵かもしれないが、その心強い言葉に「ありがとう」と――――。




 ――――突如現れた銀の光から、フランがアスカを庇った




「うぐっ‼」

「フランッ‼」

「ど、どこからっ‼」

 混乱する中、ヴァンはフランを抱き起す。どうやら肩を貫かれたようで、命に別状はなさそうだ。

「ほ……北北西、距離、2.5km」

 フランのうめき声を聞いた瞬間、イリーナは駆け出した。ヴァンも追いかけようとしたが、二撃目が全く別の場所から放たれた。

「くっ!」

 弾丸をはじきながら、複数人敵がいると考えた。……が、このままでは離れられない。


「アスカ様‼ ……こ、こっちだよ!?」


「ライちゃん!」

 そこにいたのは、弱気な竜人族の少女じゃない。緑のごつごつしたトカゲの肌に、巨大な尻尾。大翼を背負った竜った。

 竜変化……竜人族の秘儀。己の体を竜に変化させる能力。ライネルはその力で、全長10mほどの竜になっていた。

「ごめん……ね? わ、わたし……やっぱりレヴォルにはつけない……の」

「……そっか。わかった」

 リーは、素直にライネルの気持ちを受け止めて、まっすぐにライネルを見送ろうとする。

「油断するな‼ 攻撃は続いているぞ‼」

 ヴァンの忠告通り、弾丸が一つアスカの眉間に向かう。それを刀で切り伏せ、軌道を変える。

「アンタに言われなくてもわかってる‼ 次会うときは敵だから……殺しても文句いわないでよ」

「気にするな……次は本気でこい」




 アスカはふっと優しく微笑み、巨竜の羽ばたきと共に虚空へ消えた……。そして、不思議とその瞬間攻撃はぴたりと止んだのだった。

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